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超音波による治療〜日経サイエンス2019年8月号より

皮膚を通して神経を刺激すると炎症を治療できそうだ

 

超音波は医療画像検査に広く使われているが,近年は別の用途の開発が始まっている。病気を治療するために,超音波で神経を刺激するのだ。齧歯(げっし)類で行われた2件の新研究では,免疫系と情報交換している脾臓の神経に音波振動を集中させ,炎症を軽減した。この方法の安全性と有効性が人間で証明されれば,関節リウマチなどの炎症性疾患に対する非侵襲的な治療法となる可能性がある。

 

20年ほど前,神経科学者のトレイシー(Kevin Tracey)らは,脳から発して迷走神経を伝わる信号が免疫系を制御していることを発見した。「これらのシグナルは脳幹で生じる原始反射で,体内の細胞の健全性を保つように進化した」と,現在はファインスタイン医学研究所(ニューヨーク州マンハセット)の所長兼CEOを務めるトレイシーはいう。神経刺激は,それらの反射と同じ効果を生み出す方法のひとつだ。

 

脾臓の神経に照準

迷走神経は多くの臓器に枝分かれしており,脾臓に分布する2次神経を介して免疫系と連絡している。脾臓は体内を循環する免疫細胞がいったんとどまってから血流中に戻っていく場所だ。3月のNature Communications誌に公表された2件の新研究は,マウスの脾臓に皮膚を通して送り込んだ超音波が神経終末に当たると,迷走神経を直接刺激したのと同等の効果が得られる可能性を示唆している。直接刺激の場合は手術で電極を埋め込む必要があるのに対し,そうした処置なしですむ。

 

ファインスタイン研究所やGEリサーチに所属するトレイシーの共同研究者が率いた研究では,脾臓の神経に超音波を数分間当てたラットにおいて,注射した毒素に対する炎症反応が弱まった。ミネソタ大学の研究者らによる別の研究では,関節炎のマウスの脾臓神経を毎日20分間ずつ1週間にわたって刺激した結果,症状が軽減した。脾臓を狙う方法は迷走神経に焦点を合わせる方法よりも正確だろうと,後者の研究論文の筆頭著者リム(Hubert Lim)はいう。「脾臓を標的にすると,全身に及ぶ影響がほどほどですむ」。(続く)

 

続きは現在発売中の2019年8月号誌面でどうぞ。

 

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