News Scan

少ないデータで性能を予測〜日経サイエンス2019年5月号より

マテリアルズ・インフォマティクスの新潮流

 

情報科学を駆使して材料を開発するマテリアルズ・インフォマティクスの分野で,少ないデータから性能を予測する解析手法が脚光を浴びている。AI(人工知能)を使って新材料の設計を探索する試みが盛んだが,AIに学習させるデータが十分に得られないことが大きな壁になる。例えばディープラーニングで材料の性能を予測しようとすれば,数万〜数億件のデータが必要とされる。これまでの論文をすべて集めても,そんな数の実験データは得られない。そこで,探索の範囲を賢く絞り込むことで少ないデータから効率よく結果を得る解析手法の研究が進んでおり,材料開発の現場でも使われ始めた。

 

実現可能な物質をAIで推定

研究が活発化したきっかけは,2011年に米国が始めた「マテリアルゲノム計画」だ。これまで試行錯誤で行っていた新材料の開発を情報科学によって効率化し「新材料の開発期間を半減する」として,国レベルで研究を推進した。4年後の2015年に,欧州,中国,韓国がそれぞれ同様の国家プロジェクトを開始。日本では独立行政法人の物質・材料研究機構(NIMS)が化学メーカーなどとともに研究コンソーシアムを立ち上げた。世界的に研究が進む中でデータ不足が大きな課題として浮上し,数十〜数百件の少ないデータしかない場合や,データがまったくないときでも結果を得られる手法の開発が進んだ。

 

理化学研究所の津田宏治チームリーダーは,AIと従来の数値シミュレーションを組み合わせ,目的に合う材料を効率よく発見するシステムを開発した。まず有機分子の構造式の公開データベースをAIに学習させ,炭素原子や水素原子などが結合する法則を抽出。ここから,囲碁AIが次の一手を探すときなどに用いる「モンテカルロ木探索」という手法を使って,安定に存在するとみられる有機分子の構造式を大量に生成した。これらの分子について,必要な性能の指標を「密度汎関数法」(DFT法)という化学計算の手法によって計算し,候補分子を絞り込んだ。それらを実際に合成し,実験で確認した。

 

実際にAIで3200個の有機分子の構造式ライブラリーを作成し,DFT法を使って特定波長の光の吸収率を計算。10日で候補分子を86種に絞り込んだ。このうち6種を試しに合成したところ,5種は狙った波長の光を吸収することがわかった。(続く)

 

続きは現在発売中の2019年5月号誌面でどうぞ。

サイト内の関連記事を読む