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科学アイデアの伝染〜日経サイエンス2019年4月号より

感染症伝播モデルが明かした少々いびつなパターン

 

感染症と同じく,学術界の発想も人から人へ伝染する。だが広範囲に伝わるアイデアがある一方で,同様に優れたアイデアがあまり世に知られないままになる理由は謎だった。最近,あるコンピューター科学者チームが疫学モデルを用いて,アイデアが学術機関から別の学術機関へどのように移動するかをシミュレーションした。この結果,同じように優れたアイデアであっても,権威ある研究機関に由来するものはそれほど有名でない機関から生まれたアイデアよりも大きな“伝染”を引き起こすことが示されたと,コロラド大学ボルダー校のコンピューター科学者で新研究の論文の筆頭著者を務めたモーガン(Allison Morgan)は説明する。

 

「アイデアがその質を保ちながらどこまで広がるかは,そのアイデアの生まれた場所によって決まることをうかがわせる結果だ」と,論文を共著した同じくコロラド大学のクローセット(Aaron Clauset)はいう。

 

これは不公平なだけでなく,「現在の科学活動の大きな弱点を露呈している」と,カーネギー・メロン大学の社会科学・意思決定科学の教授デデオ(Simon DeDeo,今回の研究には加わっていない)はいう。一流機関に属してはいないが高度な教育を受けて素晴らしいアイデアを持っている人はたくさんいる。「優れたアイデアが現に生まれているのに,それらが失われているということだ。現在の科学,学問にとって,これはよろしくない」とデデオはいう。

 

埋もれた可能性

モーガンらは北米のコンピューター科学分野の大学教員に関する既存のデータセットと,それら教員による公表論文のデータベースを解析した。まず,コンピューター科学分野の5つの大きなアイデアが研究機関にどのように広がるかを調べた。この結果,教官の採用・異動がアイデア移動の原因だったケースが全体の1/3余りで,そのうち81%は著名大学からそれほどでもない大学への動きだった。次に感染症モデルを用いてアイデアの伝播をシミュレーションし,アイデア“伝染”の規模(アイデア提起後に,それに関連する研究を発表した機関の数で測定)が発信元機関の名声によることを見いだした。昨年10月のEPJ Data Scienceオンライン版に報告。

 

これは「ごく普通の大学で生まれた優れたアイデアが数多く埋もれている可能性」を示しているとクローセットはいう。デデオも同意見で,あまり有名でない機関から発表される優れた研究が多くあるという。「そこから多くを学ぶことができるし,関心を払われずに埋もれていることを学べる」。■

 

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