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テッポウウオの顔認識〜日経サイエンス2019年4月号より

正面でも横顔でも見分けられる

 

英オックスフォード大学の動物学者ニューポート(Cait Newport)は,研究しているテッポウウオが彼女のことを認識できるのではないかと考えた。この熱帯魚は獲物の昆虫に向かって水を噴射することで知られているが,ニューポートが研究室に歩み入ると決まって彼女を狙うのだ。

 

ニューポートらは2016年,この魚が人間の顔を覚えられることを示した。コンピューターで合成した正面向きの顔に水を噴射するようテッポウウオを訓練したうえで実験したところ,試行の77~89%で顔を見つけ出して水を噴いた。だが見慣れた顔を別の角度から見た場合にどうなるかは不明だった。今回はこの点を調べ,同じ顔を30°,60°,90°回転させても認識できることを示した。この認識は簡単なことではない。昨年11月のAnimal Behaviour誌に報告。

 

一連の実験は魚が3次元の物体をどのように知覚しているかを調べるのが狙いで,顔は特に興味深い対象だ。「顔は複雑で,コンピューターや人間にとっても処理が非常に難しい。また,向きによって実に興味深い変化を見せる」とニューポートはいう。
 

 

大脳皮質がなくても

人間の場合,顔の認知は大脳皮質でなされている。哺乳動物の大脳皮質は高次の認知をつかさどっている。ニューポートの研究は,大脳皮質のない動物でも人間の顔を区別できることを示している。「魚は実に小さな脳でこれらの非常に複雑な視覚処理を実行できているわけで,それをヒントに新たな顔認識技法を考案できるかもしれない」という。

 

魚は人間が考えているよりも賢いと,独ボン大学の動物学者シュリュッセル(Vera Schluessel,この研究には加わっていない)はいう。「古い動物ほど原始的だといわれているが,実は正反対だ」という。テッポウウオの脳の仕組みは人間の脳とは違うかもしれないが,ある物体が別の角度からどのように見えるかを推定できている。それは狩りや泳ぎ,捕食者の発見に欠かせない重要なスキルだ。

 

シュリュッセルのチームや他の研究によって,他の魚についても優れた視覚能力が示されてきた。シマザメは形を認識でき,記憶をもとに迷路を泳ぎ抜く。ニセネッタイスズメダイは人間の目には見えない紫外線パターンを他の魚の顔に見ることができる。エンゼルフィッシュは数を数えられる。これまで考えられていたよりも人間をはっきり見ることができる魚がいることがわかったいま,私たちも彼らを見る目を変えるべきだろう。■

 

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