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意思を生む脳回路〜日経サイエンス2019年3月号より

エイリアンハンド症候群の研究から見えてきた脳の作用

 

ダービー(Ryan Darby)は神経科の医学実習生だったころ「エイリアンハンド症候群」という症状を聞き知ってはいたが,実際に患者を診察すると,その行動はまるで不可解でしかなかった。患者は四肢の1つ(手であることが多い)が勝手に動くように感じるという。その手はものに触ったりつかんだり,他方の手がとめたシャツのボタンをはずすこともできる。ところが患者はこの勝手に動く手を制御できず,物をつかむのをやめさせることも,動きを止めることもできないのだ。

 

患者はまるで「行為の主体性」を失っているようだ。自分が自分の動きを支配しているという間違いようのない感覚,自由意思の重要な構成要素が失われている。「エイリアンハンド症候群は,心とは何であって,より大きな概念を心がどのようにしてもたらすのかという疑問を投げかける疾患の1つだった」と,現在バンダービルト大学で神経学の准教授を務めているダービーはいう。

 

損傷部の位置と脳回路の関係

エイリアンハンド症候群は脳卒中によって脳が傷ついた後に発症することがある。だが,患者たちは同様に奇妙な症状を訴えるのに,脳損傷の場所は同じではない。「同じ脳回路の異なる部分が傷ついているためだろうか?」とダービーは考えた。これを調べるため,彼らはエイリアンハンド症候群の患者の脳の画像解析結果を集めた。さらに「無動性無言症」の患者の脳についても調べた。身体的な障害がないのに,動きや発話の欲求がなくなる病気だ。新技術を使い,脳損傷の場所を脳回路(同時に活性化することが多い脳領域のグループ)の位置と対照した。

 

エイリアンハンド症候群に関する損傷はすべて,「楔前部」と接続しているネットワーク上に位置していた。楔前部は自己認識と行為主体性に関連づけられている領域だ。一方,無動性無言症の患者の脳損傷部位は,「前帯状皮質」を中心とする別のネットワークの一部分にあった。前帯状皮質は随意活動に関与していると考えられている。また,これら2つのネットワークは,電極で刺激すると自由意思に関する感覚が変わることが以前の研究で示されていた脳領域を含んでいる。去る10月の米国科学アカデミー紀要に報告。(続く)

 

続きは現在発売中の2019年3月号誌面でどうぞ。

 

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