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人工クモの糸〜日経サイエンス2019年2月号より

組み換え微生物を用いて本物と同じ強さと弾性の糸を合成

 

クモの糸は工学者にとって夢の素材だ。鋼のように強く,伸縮性があり,毒性はなく,生分解性がある。だがクモを飼育するのは容易でない。1匹が生み出す糸はほんのわずかだし,共食いするクモもいる。外科用の縫合糸やスポーツ用品,防弾ベスト向けにクモの糸を模した素材を開発する試みが何十年も続いてきたが,合成された糸の特性は本物に及ばなかった。だが最近,ある研究チームが細菌を使って,本物のクモの糸と同様の強さと弾性を持つ糸を作り出した。

 

クモの糸はタンパク質でできている。この物質を大量生産すべく,クモから取り出した糸タンパク質の遺伝子が細菌やカイコ,植物,さらにはヤギにまで組み込まれてきた。だが最近まで,そうして作った人工糸の強さは最良のものでも本物の半分しかなかった。

 

クモの糸が強いのは,そのタンパク質が何百ものアミノ酸鎖が反復した巨大分子であるためで,これをコードしているDNAも長くて反復を繰り返した配列となっている。しかし「自然は一般に反復的なDNAを好まず,排除しようとする」とワシントン大学(セントルイス)のエネルギー・環境・化学工学教授ジャン(Fuzhong Zhang)はいう。クモは大きなDNA反復配列を安定化する方法を見いだしたが,他の生物ではそうした反復ユニットは切断されるか変化する。

 

分子2つをくっつける細工

ジャンらはこの問題を回避するため,糸タンパク質の生産に関与しているクモのDNAを改変した。この改変DNAを組み込まれた細菌は,独特な“タグ”がついた糸タンパク分子を作る。このタグが2つの分子をくっつけて望ましい長さの鎖にした後,長鎖分子から分離して消える。得られたタンパク質は自然に存在する最大のタンパク質分子よりも長い。このタンパク質を粉末にして溶液に混ぜ,天然のクモの糸と同じ強度の糸を紡ぎ出した。Biomacromolecules誌9月号に報告。(続く)

 

続きは現在発売中の2019年2月号誌面でどうぞ。

 

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