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ハイになって踊るタコ〜日経サイエンス2019年2月号より

幻覚剤がタコに及ぼす影響から社会行動の起源に迫る

 

最近,幻覚剤のMDMA(「モリー」や「エクスタシー」などとも呼ばれる違法ドラッグ)を数匹のタコに与える実験が行われた。タコ史上最高にハイになった個体を観察しようとの「イグノーベル賞」狙いの試みに思えるかもしれないが,この研究をCurrent Biology誌10月号に報告した科学者によると,トリップ状態の頭足類は人間を含む動物界全体に見られる社交性の起源を解明するのに役立つ可能性がある。

 

「私たち人間は,自分たちの由来を知りたいと望んでいる」とジョンズ・ホプキンズ大学医学部の神経科学者でこの研究論文を共著したデーレン(Gül Dölen)はいう。「MDMAは多くの生物種に見られる社会行動を調べるための驚くべきツールだ」。

 

MDMA(3,4-メチレンデオキシメタンフェタミン)はニューロン(神経細胞)にある輸送タンパク質に結合し,ニューロンが利用できるシグナル伝達物質セロトニンの量を大幅に増やす。この大量のセロトニンによって陶酔感と社交性が生じる。MDMAに関する研究はこれまでほとんど,この薬物に人間と同様に反応するマウスやラットで行われてきた。

 

これら齧歯(げっし)類とヒトが進化系統樹で分岐したのは約7500万年前だが,タコとヒトの間となると5億年もの隔たりがある。頭足類は無脊椎動物であり,その脳は人間とは大きく違っていて,大脳皮質や大脳基底核,側坐核など,複雑な社会行動と関連づけられている領域がない。このように進化的に古く,ヒトとかけ離れている(ネズミなどよりもずっと遠い)生き物にセロトニンがどんな影響を及ぼすかを調べれば,このシグナル伝達物質が友好的な社会行動を誘発する作用を太古の生物から常に発揮してきたのか,それともこの機能がもっと後になって進化したのかを明らかにできるとデーレンはいう。

 

上機嫌で宙返りタコ踊り

デーレンと海洋生物学研究所(マサチューセッツ州ウッズホール)の研究員エドシンガー(Eric Edsinger)は,典型的には社会性の乏しいタコであるカリフォルニア・ツースポットタコを2匹1組にして水槽に入れた。うち1匹は網のカゴのなかに入れ,他方のタコを見て匂いをかぎ触ることもできるが,けんかはできないようにした。予想通り,自由に泳げるほうのタコはほとんどの時間,カゴのなかのタコからできるだけ離れ,水槽の反対側で過ごした。

 

だが,このタコをMDMAの水溶液にさらしてから実験用水槽に戻したところ,状況は一変した。薬物を与えられたタコはお祭り騒ぎをしている人間のように,リラックスした姿勢を取って腕を動かし,まるでダンスをしているように水中で宙返りした。また,カゴのなかのパートナーの近くで過ごす時間が著しく増え,相手に触ろうとしたり,カゴに抱き着くような姿勢を取ったりした。(続く)

 

続きは現在発売中の2019年2月号誌面でどうぞ。

 

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