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発生のバランス技〜日経サイエンス2018年12月号より

四肢が成長をそろえる仕組み

 

身体のつくりが左右相称な動物種は約4億年前から地球上に存在し,人間は自らの左右相称性に強い関心を抱いてきた。美の認識において対称性が重要であることや,両手足を左右に広げた人体を描いたダ・ヴィンチの「ウィトルウィウス的人体図」が好例だ。

 

最近,科学者たちはさらに一歩踏み込んだ。豪モナシュ大学オーストラリア再生医学研究所の発達生物学者ロゼッロ=ディエス(Alberto Roselló-Díez)らは,発生中のマウス胎仔がどのようにして左右相称を維持しているかを調べた。胎仔の四肢の1本が他よりもゆっくりと成長するようにしたうえで,非対称性が最終的に修正される過程で細胞がどのように情報交換しているかを観察した。この現象を解明した研究は初めて。
 

 
胎盤から「待て」の信号

ロゼッロ=ディエスらは1年間の失敗を重ねた末,発生が非対称になるマウス胎児モデルを作った。シャーレ上の培養細胞を改変するために開発された技法を借用し,マウス胎仔の左後ろ脚に,脚の成長を抑えるタイプの細胞を注入した。この結果,成長を抑えられた組織の周囲にある細胞が胎盤と情報交換し,胎盤が残り3本の脚を含む他の組織に成長速度を落とすように信号を出していることがわかった。遅れていた脚の成長が追いつくと,再び均一な成長に戻った。6月のPLOS Biology誌に報告。

 

この過程は「二人三脚」だとカリフォルニア大学サンディエゴ校の細胞生物学・発生生物学者クーパー(Kim Cooper,今回の研究には加わっていない)はいう。「1人の歩みが速すぎると,同期が取れなくなる。胎盤による調整メカニズムのおかげで,遅い人が追いつくことが可能になっている」。

 

この研究は四肢の発達といわゆる「追いつき成長」に関する知見をもたらしたが,新たな疑問も生んだ。例えば遅れていた脚の成長が追いついた時点で,他の脚は成長を再開すべきであることをどのようにして知るのか? バージニア大学の細胞生物学者ホーム(Adrian Halme,今回の研究には加わっていない)は「人はみな自分の四肢が対称なのは当然のように思っているが,その対称性を獲得する過程は実に驚異的なのだ」という。■

 

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