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チャーン賞を柏原正樹氏が受賞〜日経サイエンス2018年10月号より

代数解析や量子群などで多大・広範な業績

 

 


柏原正樹・京都大学名誉教授・数理解析研究所特任教授

国際数学連合(IMU)は8月1日,ブラジル・リオデジャネイロで開かれた国際数学者会議(ICM2018)で,長く卓越した数学的業績を上げてきた数学者に贈られるチャーン賞を,柏原正樹・京都大学名誉教授・数理解析研究所特任教授(71)に授与した。代数解析と表現論を中心に50年にわたる幅広い活躍を評価した。柏原氏は先に京都賞の受賞が発表されたばかり。続いた大きな受賞に,現IMU総裁の森重文氏をはじめ,日本の数学界も喜びにあふれた。

 

チャーン賞は,チャーン類,チャーン・サイモンズ理論などの成果で数学のみならず数理物理などの周辺領域にも広く影響を与え2004年に93歳で亡くなった20世紀を代表する幾何学者シンシェン・チャーン(陳省身)を記念してIMUが2009年に制定,今回で3回目だ。チャーン氏と同様に生涯にわたり数学に関して傑出した業績を上げた1人に,4年ごとの国際数学者会議の際に授与される。

 

柏原氏は,佐藤超関数,代数解析,ソリトンと可積分理論という独自の数学を作り続けた佐藤幹夫・京大名誉教授が率いたいわゆる「佐藤スクール」の一等星である。主として数学の革命的な枠組み作りに熱心で,詳しい内容や証明を作るのを苦手とした佐藤氏を支えて,その「額縁に入る絵」をきちんと描いたのは,柏原氏ら佐藤スクールの数学者たちだった。

 

微分方程式の一般的な構造を示す理論を目指して,佐藤氏は1969年,東京で開かれた「函数解析学国際会議」で「不等式の数学」といわれる解析学を「等式の数学」である代数学で説明する代数解析の創始を発表した。

 

その前年から東大数学教室で開かれていた佐藤氏を囲むセミナーに,数学科の4年生だった柏原氏は,東大数学科の1年先輩の河合隆裕氏と出席していた。柏原氏は,専門に進学する前の教養課程のときに,フランスの数学者グロタンディークの難解で知られる著書などを独力で読み,数学を志した。フィールズ賞を受けた小平邦彦東大教授に師事していたが,佐藤氏との出会いが人生を決めた。

 

 

続きは発売中の10月号

筆者は科学ジャーナリスト・内村直之