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細菌テープレコーダー〜日経サイエンス2018年5月号より

CRISPRに着想を得た微生物メモリー

 

CRISPR(クリスパー)は強力なゲノム編集ツールの基盤として知られているが,そもそもは細菌がウイルスに対して使う防御システムだ。この精巧な天然の仕組みに着想を得たある研究チームが最近,別の科学ツールを作り出した。細菌のDNA鎖に生物学的シグナルを記録する小さな“テープレコーダー”だ。

 

同チームはこの微生物レコーダーに様々な使い道があると考えている。例えば消化など人体機能の異常を検知するのに使える可能性がある。海洋汚染物質の濃度測定や,土壌中の養分の変化の検出も可能だろう。このシステムは,検出するシグナルが違う点を除けば,多くの細菌や単細胞生物が備えている天然のCRISPRシステムと同じように働く。

 

DNAテープへの記録

CRISPRは細菌が遭遇したウイルスの遺伝子の記録を作成・保存しているDNA配列で,ウイルスが再びその細菌やその子孫に感染しようとした場合にウイルスを殺す指令を出す。天然のCRISPRシステムがウイルスDNAを記憶するのに対し,新開発の応用は様々な生化学シグナルを追跡できるようにしてある。例えば人間の腸のなかで感染が起こるとフコースという糖が生じるが,この存在を検出する。

 

細菌が特定のシグナルを感知すると,「トリガーDNA」と呼ばれる配列のコピーをたくさん作り,それらが遺伝的な“記録テープ”の片方の末端に記録される。このテープはそのシグナルが消えても記録を続け,細胞内を動き回っている他のDNA断片による“背景ノイズ”を記録していく。これらの背景シグナルは記録のタイムスタンプとなる。コロンビア大学の研究チームが昨年12月のScience誌に報告した。

 

自分で記録を書くDNA

このツールのコピーを組み込んだ数百万個の細菌を人体や環境中に展開すれば,周囲の状況に応じて受動的な記録が進み,後に糞便や土壌サンプルから細菌を回収して記録テープを読み取ることができると研究チームは考えている。従来の大半の生物記録システムと違って,このシステムは完全に細菌の細胞によってコントロールされている。

 

「このDNAは環境変化に応じて自分で記録を書いているが,以前の例ではDNAをどう書くかを示す操り人形師のようなものが存在し,誰かが糸を操っていた」とスタンフォード大学の合成生物学者エンディー(Drew Endy,今回の研究には加わっていない)はいう。(続く)

 

続きは現在発売中の2018年5月号誌面でどうぞ。

 

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