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煙くさいワイン〜日経サイエンス2018年2月号より

山火事の煙がブドウを損なってワインの風味を落とすまで

 


Nagarjun Kandukuru

火であぶったオーク樽のなかで熟成させたワインは,かすかな煙の香りがしてとてもおいしい。だが煙のにおいが強すぎると風味が台なしになる。温暖化が進み大規模な山火事が増えると,ブドウ畑に煙が流れ込んでブドウの木がそれを吸収し,ワインが煙くさくなる。業界が「スモークテイント」と呼ぶ不快な風味だ。2006年から2007年にかけてオーストラリアのビクトリア州だけで6000万〜7000万ドル分のワインがだめになった。去る夏の終わりには米オレゴン州とワシントン州のブドウが山火事で損なわれ,数十人の死者が出たカリフォルニア州の惨事では同州北部が大打撃を受けた。

 

煙がワインの風味を落とす生化学的な仕組みはほとんどわかっていない。さらに謎なのは,ブドウ自体には煙のにおいがついていないのに,最終的にできあがったワインが煙くさくなる場合があることだ。

 

酵素と酵母が関与

いったい何が起こっているのか,最近の研究で手がかりが得られた。独ミュンヘン工科大学の食品化学者シュワブ(Wilfried Schwab)らは去る7月にJournal of Agricultural and Food Chemistry誌に報告した研究で,ブドウの木にグリコシルトランスフェラーゼという酵素を特定した。この酵素はブドウのなかで煙の分子を糖に結びつけ,配糖体(グリコシド)と総称される化学物質を作る。配糖体そのものは無味無臭に近いが,発酵の過程で酵母によって分解され,煙くささが放出されてワインをだめにする。

 

この発見から,におい問題に対する解決策がいくつか考えられる。1つは配糖体を分解しない酵母菌株を作るか単離することだ。あるいは,グリコシルトランスフェラーゼを不活性化する化学物質を開発してブドウの木に散布する戦略も考えられる。こうすればブドウの木のなかで糖が煙の分子と結合して煙くささを固定するのを防げるだろうと,オーストラリアワイン研究所のハーデリック(Markus Herderich,ミュンヘンのチームには加わっていない)はいう。

さらに,グリコシルトランスフェラーゼの量がもともと少ないブドウの品種が見つかるかもしれないし,この酵素を持たないブドウを遺伝子操作で作ることも可能だろう。解決策の研究が進行中だとシュワブはいう。

 

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