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心臓の凍結防止〜日経サイエンス2018年1月号より

北極の生物にヒントを得た化合物で移植用臓器を長持ちさせる試み

 

生体組織を氷点下の温度に長時間さらすと,修復不可能な損傷が生じる。水分が小さな氷結晶に集中して細胞を破壊し,提供された臓器は移植に適さなくなる。このため提供臓器は冷蔵して数時間以内に移植しなければならない。だが新たな凍結防止物質を使えば,臓器を長持ちさせられるだろう。耐寒性にとりわけ優れた動物の体内に見られるのと似た物質だ。

 

英ウォーリック大学の研究チームは,北極海の魚やアメリカアカガエルなど,極寒の地でも血液が凍らずに生きていける生物が持っているタンパク質にヒントを得た。これら自然の凍結防止分子を使うとラットの心臓を−1.3℃で24時間保存できることが以前の研究で示されていた。だがこれらのタンパク質は抽出に費用がかかるうえ,一部の生物には非常に有毒だ。

 

「問題解決には凍結防止タンパク質とまったく同様の化合物を合成する必要があると誰もが長いこと思い込んでいた」と,研究論文を共著したウォーリック大学の化学者ギブソン(Matthew Gibson)はいう。「ところが,構造は凍結防止タンパク質と必ずしも似ていないが同様に機能する新分子を設計できることがわかった」。

 

天然分子をまねた新設計

天然の凍結防止分子のほとんどは,親水性と疎水性の領域がつぎはぎになったパッチワーク構造だ。これがどのように氷結晶の形成を防ぐのか正確にはわかっていないが,水分子が押されたり引っ張られたりのカオス状態になって,氷になるのが妨げられるのだろうとギブソンは考えている。

 

そこでギブソンらは大部分が疎水性だが中心に親水性の鉄原子の集団がある螺旋状の分子を合成した。得られた化合物は氷結晶の形成を驚くほど強く阻害した。一部の分子は線虫に加えた実験で毒性を示さず,他の動物にも安全だと思われる。この結果はJournal of the American Chemical Society誌7月号に掲載された。(続く)

 

続きは現在発売中の2018年1月号誌面でどうぞ。

 

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