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酸性脳と精神疾患〜日経サイエンス2018年1月号より

パニック障害など一部の疾患と脳の低pH値が関連づけられている

 


Graphic by Amanda Montañez

人間の脳では酸性度が頻繁に変化しており,ときどき急上昇する。この一時的急上昇の原因は主に,脳が糖を分解してエネルギーを作り出す際に常に放出されている二酸化炭素だ。だが健康な脳は総じて中性を保っている。呼吸などによって二酸化炭素を排出して状態を維持しているため,一瞬の酸性度の揺らぎはふつう気づかれない。

 

しかし一部の人ではこのわずかなバランスの変化がパニック障害などの精神疾患に関連していることを示唆する研究結果が増えてきた。最近の研究はそうした関連性が実際に存在することを裏づけており,統合失調症や双極性障害にも及ぶ可能性がある。

 

指摘されてきた兆候

脳の酸性度と障害が関連している兆候は以前から指摘されていた。数十人の死亡者の脳についてpH値(水素イオン濃度指数。酸性度を示す指標)を直接測定した研究は,統合失調症と双極性障害の患者の脳のpH値が低い(酸性度が高い)ことを示した。また過去数十年間の複数の研究で,パニック障害患者が通常よりも高濃度の二酸化炭素(体内の水分と反応すると炭酸になる)を含む空気にさらされると,より高率でパニック発作を起こすことがわかっている。また別の研究は,パニック障害患者の脳は乳酸塩の濃度が高いことを明らかにした。乳酸塩はエネルギー源となる酸性の燃料物質で,大量のエネルギーを必要とする脳では常に作られ消費されている。

 

しかし,脳の酸性度が本当に疾患と関連しているのか,それとも抗精神病薬の服用や死亡直前の患者の体調など別の要因によるものなのか,はっきりしなかった。例えば「徐々に死亡する場合は低酸素状態が長く続く可能性が高く,それによって代謝が変化するだろう」とメリーランド大学教授の精神科医レジェノルド(William Regenold)は説明する。そうした状況では,人体は酸素を利用しない経路を用いてエネルギーを作り始める。この結果,脳の乳酸塩レベルが通常よりも高まり,pH値が下がる可能性がある。

 

pH値の影響だけを抽出して解析

そこで藤田保健衛生大学の神経科学者,宮川剛(みやかわ・つよし,同大学総合医科学研究所教授)らは,統合失調症または双極性障害の患者400人以上の死後脳を調べた10件の研究データを精査した。脳の酸性度と障害の関連に関する主な仮説を検証するためだ。(続く)

 

続きは現在発売中の2018年1月号誌面でどうぞ。

 

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