きょうの日経サイエンス

2017年10月4日

2017年ノーベル物理学賞:超大型干渉計「LIGO」を構築,宇宙から来る重力波を初めて観測した3氏に

2017年のノーベル物理学賞は,超大型レーザー干渉計「LIGO」を構築し,宇宙から来る重力波の初の観測に成功した米マサチューセッツ工科大学(MIT)のワイス(Rainer Weiss)博士,カリフォルニア工科大学のソーン(Kip S. Thorne)博士,バリッシュ(Barry C. Barish)博士の3氏に授与されることになりました。

 

人類は長きにわたって,星々が放つ光を観測してきました。ガリレオは望遠鏡で惑星を見て地動説を見いだし,近年では宇宙の最深部から来るマイクロ波やブラックホールが出すX線を観測する探査機が活躍して宇宙の進化を探っています。これらはすべて波長が異なる電磁波で,いわば光の仲間です。ですが星々にはもう1つの重要な要素があります。質量です。

 

時空の中に質量の大きな星を置くと,まるでゴムの膜の上にボールを落としたように,周囲の時空が歪みます。そのため近くを通った星はコースが曲がって,重い星の周りを回るようになります。質量の大きな星が激しく動けば時空の歪みも揺れ動き,それが周囲に波のように伝わっていきます。これを重力波と呼びます。重力波は,質量を持つ星の動きを教えてくれる宇宙の調べなのです。

 

重力波は1915年にアインシュタイン(Albert Einsten)が打ち立てた一般相対性理論から予言されました。アインシュタイン自身もその存在には懐疑的でしたが,次第に存在すると考える人が増えてきました。1970年代に公転周期が次第に短くなる連星パルサーが観測され,重力波の間接証拠となりました。連星が重力波を発してエネルギーを失っていると考えると,うまく説明がついたためです。

 

その後,世界中で重力波の直接検出を目指した研究が動き出しました。重力波は極めて小さな信号で,観測には桁外れの検出精度が必要です。ワイス博士とソーン博士は,70年代から具体的な検討を始めました。ワイス博士は空間の微小な伸び縮みを検出する装置を設計し,ソーン博士はどんな宇宙現象に伴う重力波がどのくらいの大きさで検出できるかを計算しました。プロトタイプの試作で手応えを得た2人は,故ドレーヴァー(Ronald Drever)博士とともに,1984年にLIGO計画を立ち上げました。当初はMITとカリフォルニア工科大を中心とする計画でしたが,1994年にバリッシュ博士がリーダーとなり,大規模な国際共同プロジェクトに育てました。

 

2015年9月14日,LIGOはそれまでより精度を上げて再稼働したわずか2日後に,重力波を捉えました。13億年前に宇宙の彼方で起きたブラックホールの連星が合体したときに生じた重力波が13億年かけて地球に届き,それを検出したのです。

 

LIGOは巨大な干渉計です。90度の角度で作った長さ4kmのトンネルの中でレーザーの光を何百回も往復させた後,光の波を重ねて干渉させます。重力波によって空間がわずかに伸び縮みすると,干渉によって生じる信号が変化します。2015年に検出した重力波では,空間が最大で10−21だけ伸び縮みしました。こう言われてもピンときませんが,これは先にカッシーニ探査機が旅した地球から土星までの距離(約15億km)が,わずか1nm,アミノ酸1個とかフラーレン1個分だけ伸び縮みしたことに相当します。LIGOはその極微の変化を捉えたのです。

 

 

LIGOの観測成功は2016年2月に発表され,世界的なニュースになりました。その後も3度にわたって重力波を検出し,8月には欧州に建設された干渉計VIRGOもLIGOと同時に重力波を捉えました。今後は世界のあちこちで重力波が定常的に観測されるようになるでしょう。人類は,電磁波に加えて重力波という新しい宇宙観測の手段を得ました。重力波は星々がどのように動いているかを理解する手がかりとなり,地上とは桁違いの強い重力が働く場で一般相対性理論を検証する手段にもなるとみられます。

 

日本でも重力波観測装置「KAGRA」の建設が進んでいます。チームを率いる東京大学宇宙線研究所の梶田隆章所長は「今回の授賞は,私たちにも力を与えてくれるものだ。この大切な分野の研究を,これからKAGRAで発展させていきたい」と話しています。現在,検出感度を上げるための作業を進めており、来春から試験観測を再開する予定です。  (古田彩・中島林彦)

 

 

 

詳報は10月25日(水)発売の日経サイエンス12月号にて

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もっと知るには…

時空のさざ波 重力波を追う」,2002年7月号,W.W. ギブス
ビッグバンの残響を探る」, 2014年3月号,R. D. アンダーセン
重力波の直接観測 3つの意義」,2016年5月号,大栗博司
GW150914の衝撃」,2016年5月号,中島林彦 協力:大橋正健/田中貴浩

別冊日経サイエンス215「重力波・ブラックホール 一般相対論のいま