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傷ついたハートの修復〜日経サイエンス2017年10月号より

幹細胞を注入する臨床試験が進行

 


心臓発作から数日後,生還した患者とその家族はとりあえずの危機が去ってほっと一息つくことができる。だが,その後の長期にわたる治癒過程で生じる瘢痕組織が恒久的なダメージをもたらす恐れがある。よくあるのは,適切な鼓動を続ける能力が損なわれ,拍動が乱れて心不全につながる例だ。だが新しい治療法によって,これを修復できる可能性が出てきた。

 

心臓の損傷を予防あるいは回復するため,弱った心臓に様々な幹細胞の混合物を注入する方法が試みられている。オーストラリアのメルボルンにあるメソブラスト社はすでに後期臨床試験を実施中で,健康なドナーの腰骨から採取した幹細胞前駆体を用いて数百人の慢性心不全患者を治療している。来年には,プラセボ群を含むランダム化試験への患者登録が完了する予定だ。

 

2015年にCirculation Research誌に発表された同社の初期臨床試験の結果では,幹細胞混合物の注射を受けた患者はその後,心不全に関連する問題が生じなかった。

 

この分野はこれまで長い間,お粗末な設計の臨床試験や,対照群との比較が不完全または欠如していること,有効性の立証されていない治療法が世界中の多くのクリニックで行われていることなどを批判されてきたが,この新試験の有望な結果は大きな前進となるだろう。

 

ベルギーのティジェニックス社は,心臓発作から7日以内に心臓幹細胞の混合物で患者を治療することによって,瘢痕組織の形成を未然に防ごうと考えている。この方法は第2相試験を終えたところだが,結果はまだ公表されていない。

 

治癒のメカニズムは?

幹細胞(骨に由来するものが典型的)が心臓の治癒にどう寄与しているのかについては,まだ多くの謎が残っている。有力な説は,幹細胞が炎症を抑える,既存の心細胞を活性化する,心細胞の増殖を促す,新たな血管成長を促進するなどの作用を果たしているとする見方だと,ハーバード大学幹細胞研究所で心血管プログラムを率いるリー(Richard Lee)はいう。

 

メソブラスト社の初期臨床試験を指揮し,現在はマイアミ大学学際幹細胞研究所の所長を務めているヘア(Joshua Hare)ら別の研究者は,幹細胞は様々な道筋で瘢痕組織を治しているのだろうという。ヘアによると,幹細胞はいずれ「真の再生医療」になりうる。■

 

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