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古代食に見えた性差別〜日経サイエンス2017年7月号より

古代中国の人骨から明らかに

 

「唯女子と小人とは養い難しと為す。これを近づくれば則ち不孫なり。これを遠ざくれば則ち怨む(女性と身分の低い男性は扱いが難しい。近づければ思い上がるし,遠ざければ恨まれる)」。紀元前5世紀にまとめられた『論語』にある孔子の言葉だ。もちろん,孔子が性差別を作り出したわけでもそれをシステム化した家父長制を考案したわけでもない。だが,社会権力がいつどうして男性に集中し始めたのかという疑問に対する答えは,孔子の祖先たる中国人の骨にあるかもしれない。

 

新石器時代と青銅器時代の中国に住んでいた175人の骨が最近調べられ,その結合組織のコラーゲンのなかに手がかりが見つかった。このタンパク質に含まれる炭素の特徴から,遺骨の主が食べていた穀物の種類がわかり,窒素の特徴から,食事に占める肉の割合がわかったという。この研究は1月の米国科学アカデミー紀要に掲載された。

 

女性は肉の代わりに小麦を

骨の化学組成は新石器時代の間は男女の食事が同様だったことを示している。新石器時代は約1万年前に始まり,農業が始まった時代で,男女とも肉と穀物を食べていた。「農業が行われるようになった初期,女性は食物生産に大いに貢献していた。男女は同じものを食べ,地位もほぼ等しかった」と,ニューヨーク市立大学クイーンズ校の人類学者で同論文の上席著者ペチェンキナ(Kate Pechenkina)はいう。

 

だが新石器時代の終わりごろから食事内容が変化し始め,青銅器時代(中国では紀元前1700年ごろに始まったとされる)を通じて変化が続いた。小麦の栽培量が増えたのだ。小麦はすでに栽培されていたヒエやアワなどの雑穀とは異なった炭素の特徴を残す。骨を分析した結果,紀元前771年から紀元前221年の間,男性は雑穀と肉を食べ続けていたが,女性の食事からは肉が消え,その代わりに小麦を食べるようになったことがわかった。女性の骨には骨粗鬆症の一種で幼少期の栄養不良の指標である「眼窩篩(がんかし)」も現れ始めた。「つまり,女性は幼少期から非常に粗末な扱いを受けていたことを意味する」とペチェンキナはいう。(続く)

 

 
再録:別冊日経サイエンス237「食と健康」

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