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ニュートリノで核監視〜日経サイエンス2017年7月号より

秘密計画を暴くための新プロジェクト

 

時は2030年。長年の論争の末,北朝鮮指導部は兵器級プルトニウムの製造中止と備蓄廃棄に同意した。査察官を招き,核爆弾には使えない形に変えるためにこれを核燃料として原子炉に装填するところを見せる。だが,北朝鮮は一部のプルトニウムを密かに温存し,原子炉には代わりに低級のウランを入れる。このウランは放射線を発し,そこにはニュートリノとその反物質の反ニュートリノが含まれる。これらは鉛や岩石をも幽霊のように透過する無害で軽い素粒子だ。策略を疑った国際機関は北朝鮮の原子炉の近くに乗用車サイズの装置を設置する。そして施設から放出された反ニュートリノの特徴的なパターンから,数カ月以内に北朝鮮のごまかしを確認する……。

 

素粒子物理学の実験手法を不法な核開発計画と戦うために利用することで,こうしたシナリオが現実になるかもしれない。プレプリントサーバーのarXiv.orgに最近公開された新しい提案は,原子炉内で兵器級の核燃料が使われているかどうかを数カ月で判別できる反ニュートリノ検出器の作製方法を述べている。そうした検出方法の必要性はますます差し迫っている。北朝鮮がミサイル技術を,イランは核兵器開発計画の能力を高めており,査察が重要課題になっているのだ。米国務長官ティラーソン(Rex Tillerson)は3月,北朝鮮の核の野望をくじくには外交圧力だけでは失敗に終わったと述べ,「別のアプローチ」を求めた。

 

ウォッチマン

原子炉内でプルトニウムなどの放射性元素の原子核がより軽い元素に分裂する際に,副産物として反ニュートリノが生じる。ベータ崩壊と呼ばれる核反応では,陽電子とニュートリノまたは電子と反ニュートリノが放出される。この反ニュートリノは原子炉の存在を物語る証拠となる。多量の反ニュートリノを安定した割合で発するのは核燃料中の放射性元素だけだからだ。

 

反ニュートリノに基づく核監視は「ウォッチマン」という米国主導のプロジェクトの推進力だ〔プロジェクト名のWATCHMANはWATer CHerenkov Monitor for ANti-neutrinos(反ニュートリノ向け水チェレンコフ・モニター)から〕。ウォッチマンの装置はガドリニウムを添加した数千トンの水を入れたタンクからなり,不法な原子炉からの反ニュートリノを理論的には最長で1000km離れたところから検出できる。厳重に警備された施設の近くに査察官が巨大な水タンクを建設するのを許すよう用心深い国に外交手続きに基づいて依頼しても実現は難しいため,そうした検出距離は重宝だ。(続く)

 

続きは現在発売中の2017年7月号誌面でどうぞ。

 

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