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iPS細胞で遺伝性難聴に光明〜日経サイエンス2017年4月号より

発症の仕組みが判明,治療薬にも見通しが得られた

 

iPS細胞は再生医療や創薬とともに難病の病因解明にも大きなインパクトを与えている。例えば動物実験で再現できない疾患について,患者のiPS細胞から疾患関連の細胞や組織を作り,変化を観察できる。慶應義塾大学と国立病院機構東京医療センターの共同グループがiPS細胞を用いて研究したのは遺伝性の難聴,ペンドレッド症候群。従来仮説とは異なり,患者の内耳の細胞で異常タンパク質の凝集が起きていることが判明し,投薬治療にも見通しが得られた。他の難聴はもちろん,異常タンパク質の凝集が見られるアルツハイマー病やパーキンソン病など脳の難病の治療研究にも新たな光が当てられる可能性がある。

 

慶應義塾大学医学部の岡野栄之,小川郁の両教授と国立病院機構東京医療センター臨床研究センター聴覚・平衡覚研究部の松永達雄部長を中心とする共同グループの研究成果で,1月3日付のCell Reports誌に発表した。

 

ペンドレッド症候群は遺伝性難聴の中で2番目に多い病気で国内の患者数は約4000人。幼少期に発症し,進行性の難聴,めまい,甲状腺腫を起こす。有力な治療薬はなく,難聴がひどくなると人工内耳の埋め込み手術を受けることになる。SLC26A4遺伝子の変異でペンドリンというタンパク質に変化が起こることが原因だが,そのタンパク質の変異でなぜ難聴などが生じるのか,メカニズムが不明だった。

 

内耳は側頭骨の内部にあり,2つに仕切られていて,それぞれリンパ液(外リンパ液と内リンパ液)で満たされ,細胞表面にある様々なイオン交換輸送体が働いてリンパ液の成分のバランスが保たれている。ペンドリンはこのイオン交換輸送に関わっており,このタンパク質が変化するとイオン交換に障害が起きる結果,リンパ液のバランスが崩れ,次第に難聴の症状が悪化するとの仮説が提唱されていた。

 

しかし遺伝子改変マウスによる動物実験の場合,生まれたときから内耳に大きな奇形があり,重度の難聴になっているため,この仮説の検証は難しかった。また内耳は骨内部にあるため,患者を診察して難聴が進行する過程を細胞レベルで調べることはできなかった。そこで研究グループはiPS細胞を用いた研究を計画した。まずヒトのiPS細胞から内耳細胞を効率的に安定して作製する手法を試行錯誤の末に確立。患者の血液細胞から作ったiPS細胞にこの手法を用いて内耳細胞を作製し,健常者のiPS細胞から得た内耳細胞と比較研究した。(続く)

 

続きは現在発売中の2017年4月号誌面でどうぞ。

 

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