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血液がん治療に新手法の可能性〜日経サイエンス2017年3月号より

アミノ酸「バリン」が造血幹細胞に及ぼす影響に着目

 

白血病など「血液のがん」を治療するのに,特別の食事制限が利用される日がくるかもしれない。「バリン」という必須アミノ酸が造血幹細胞の生成に重要な役割を果たしていることが発見された。血液がんの治療で化学療法や放射線照射に代わる方法につながる可能性があるという。

 

東大チームの発見

10種ある必須アミノ酸は,生命活動に不可欠だが人体では作り出せず,食物を通じて得なければならない。バリンはその1つで,肉や乳製品,豆類などタンパク質に富む食品に含まれている。バリンは代謝と組織修復に関与しているほか,造血幹細胞の形成にも重要らしい。東京大学とスタンフォード大学のチームが先ごろのScience誌に報告したように,ヒトの造血幹細胞はバリンを欠いた培地では増殖できなかった。また,バリンを2〜4週間にわたって摂取させずにおいたマウスでは,新たな赤血球と白血球の生成が停止した。

 

研究を率いた東京大学医科学研究所の中内啓光教授らはこれらの結果から,血液がん患者に骨髄移植を施す前に食事からバリンを取り除いておけば,化学療法や放射線照射をしなくてすむかもしれないと考えた。これらは新たに移植する造血幹細胞に場所を空けるため,がんの原因である患者の造血幹細胞を破壊する処置だが,それ自体がリスクを伴う。

 

中内らはバリンを制限したマウスを用いたその後の実験で,放射線照射や化学療法なしに骨髄移植をうまく実行できることを示した。ただ,半数のマウスは4週間の実験が終了して間もなく,バリン欠乏のために死亡した。

 

白血病治療の可能性が拡大

人間がバリンなしの食事(経静脈投与になるだろう)にどれくらいの期間耐えられるかを見極めるにはさらなる研究が必要だと中内はいう。だが,この方法がヒトでもうまく機能した場合,妊娠中の女性や血球数が少ない例など,化学療法や放射線照射ができない患者にも骨髄移植の道が開ける可能性があると,ストワーズ医学研究所(ミズーリ州)の幹細胞生物学者リ(Linheng Li)はみる(リは今回の研究には加わっていない)。もっとも,今回の方法だけでがんを直接に治療するのは難しそうで,他の治療法と組み合わせる必要があるだろうという。化学療法や放射線照射の量を低く抑えるという選択もあるだろう。

 

ある種の白血病患者に関しては,食事からバリンを除くことで白血病の原因になっている細胞を排除できる可能性もあると中内はいう。「簡便で害の比較的少ない方法が白血病治療に利用できるようになれば素晴らしい」。■

 

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