News Scan

シベリアの凍土から炭疽菌〜日経サイエンス2017年1月号より

広範囲の永久凍土が融解し,内部の微生物を環境に放出している

 

去る夏,シベリアの人里離れたヤマル半島で12歳の少年が炭疽症で死亡した。ほかに約100人がこの致死性の病気の疑いで入院し,少なくとも20人が炭疽症と診断された。さらに2300頭を超えるトナカイが炭疽症で死んだ。

 

感染の原因は? 永久凍土の融解だ。ロシア当局によると,永久凍土が融けたため,閉じ込められていた炭疽菌(Bacillus anthracis)の胞子が周囲の水や土壌に放出され,食物に入り込んだ。この地域でのアウトブレイクは75年ぶりだ。

 

地球温暖化の影響で永久凍土に閉じ込められていた大昔の細菌などが放出される恐れは何年も前から予測されていた。なかには感染防止の備えがないものや,人間が免疫を持っていない病原体があるかもしれない。その予測がいま,現実になっている。凍土の奥深くから病原菌が出てきているのだ。

 

熱波でシベリアに真夏日

炭疽菌はどこの土壌にも見られ,永久凍土とは無縁のアウトブレイクも起こりうるが,永久凍土が広範囲にわたって融けると炭疽菌に接する人も増えるだろう。2011年のGlobal Health Action誌に発表された論文で,共著者のレヴィチ(Boris A. Revich)とポドルナヤ(Marina A. Podolnaya)は「永久凍土融解の結果として,18世紀や19世紀に流行した致死的感染症の媒介生物が復活するかもしれず,そうした病気の犠牲者が埋葬されている墓地の近くが特に危ない」と予測した。

 

そして永久凍土は以前よりも高緯度の地域で,かつてないほど深くまで融けている。永久凍土の上部は夏期にはゆるむ「活動層」となっており,その厚さはシベリア各地で50cmほどだ。だが去る夏は熱波が到来し,気温が例年より25℃も高い35℃近くに上がった。このため融解の範囲と深さが広がり,通常なら凍っている大地に閉じ込められていた微生物が流出した可能性がある。

 

活動層の最終的な深さは未算出だが,過去100年になかった数値になると推測されている。また,2013年にScience誌に報告された研究によると,気温が現在よりもわずかに上がっただけで永久凍土の融解範囲は大きく広がる恐れがある。高緯度地域に熱波が生じる回数も増えている。

 

細菌の胞子,感染力のあるウイルス

永久凍土からどんな病原体が出てくるかは,その病原体の強さによる。多くの微生物は極端な寒さでは生きられないが,なかには何年も耐えられるものもある。「炭疽菌は胞子を形成する細菌なので特に強い。胞子は非常に耐性が強く,植物の種子のように100年以上も生き続ける」と,地中海微生物研究所の所長で仏エクス・マルセイユ大学教授のクラヴリ(Jean-Michel Claverie)はいう。(続く)

 

続きは現在発売中の2017年1月号誌面でどうぞ。

 

サイト内の関連記事を読む