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涙バンク構想が浮上〜日経サイエンス2016年11月号より

人はなぜ泣くのか? それを探るための研究インフラに

 

涙は身体から出る他の体液と比べて研究がまるで遅れている。涙を集めるのが大変だからだ。涙もろいドナーは少なく,男性はめったにドナーにならず,成分をきちんと分析するには涙は“新鮮”でなければならない。この結果,涙を流すという人間の基本的な行為の目的について一致した見解はない。泣くという行為は,一部の化学者が考えるように,多くの動物種が共有する原始的なコミュニケーション手段なのだろうか? それとも,心理学者が主張するように,社会的絆を築くのに必要な人間特有の行為なのだろうか?

 

イスラエルの神経生物学者ソベル(Noam Sobel)は,この疑問を解決するため,涙を急速冷凍する方法を完成させた。現在,世界中の研究者が利用できる「涙バンク」の設立に取り組んでいる。

 

イスラエルのレホボトにあるワイツマン科学研究所に所属するソベルは2011年,女性の涙には近くにいる男性のテストステロン値を下げるフェロモンが含まれていることを発見した。だがこの化学物質はすぐに分解してしまうため,それ以上の研究はなかなか進まない。

 

涙の化学成分をそのまま保存するため,ソベルらは涙を凍結するシステムを開発した。液体窒素(−196℃)を使って急速冷凍する。これにより,涙の化学成分のほとんどが保存されるという。研究チームはこの成果を年内に論文として発表する予定だ。その後,涙の冷凍貯蔵施設の整備に取りかかる計画で,涙を採取源別に分類し,ネット経由で注文に応じられる体制にするという。

 

「羊水や血液,尿のバイオバンクがあるように,涙のバイオバンクを作る。6カ月かかっていた研究が2週間でできるようになるだろう」とソベルはいう。

 

涙の化学研究を加速

ソベルは最終的に,研究者が涙バンクから年齢別や性別のサンプルを選べるようにしたいと考えている(例えば18~25歳の白人男性の試料を200人分,など)。ニーズに合わせた提供が可能になれば,涙の化学に関して残っている多くの謎に取り組む実験を加速できるだろう。例えば涙は気分や食欲に影響するのか? 男性と女性の涙は違うのか? 感情的な涙とタマネギを切ったときに出るような感情を伴わない涙は同じなのか?

 

ソベルにとっては,号泣する人が増えれば増えるほど好ましいというわけだ。

 

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