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忘れる方法を覚えられる?〜日経サイエンス2016年10月号より

記憶中枢を制御している仕組みが少しずつ見えてきた

 

コンロから落ちる熱い鍋をつかもうと反射的に手を伸ばしても,最後の瞬間には手を引っ込めてやけどをせずにすむだろう。脳の実行制御が介入して,自動的な命令系統を断ち切ることができるからだ。最近の研究によると,これと同じことが記憶の反射的想起についても当てはまるようだ。脳はつらい記憶が自発的に想起されるのを阻止できるらしい。

 

意識的に記憶を抑制する仕組み

記憶は脳のなか,相互につながった情報の組み合わせとして存在している。このため,ある記憶が別の記憶を呼び起こし,意識的努力をしなくても浮かび上がってくる場合がある。「脳は想起のきっかけを与えられると,それに関連したものを自動的に引き出して便宜を図ろうとする」と,英ケンブリッジ大学の神経科学者アンダーソン(Michael Anderson)はいう。「だが,ときには思い出したくないことを想起させるようなきっかけもある」。

 

ただし,このプロセスに対する対抗手段がないわけではない。脳の前頭葉が海馬(記憶に重要な役割を果たしている脳領域)の活動を鈍らせて想起を抑制しうることが,過去の脳画像研究で示唆されている。アンダーソンらはさらに踏み込んで,海馬が抑制された後に何が起こるかを調べた。実験では381人の大学生に多少の関連がある単語のペアを覚えてもらった後に,一方の単語を見せて,他方の単語を思い出すか,逆に他方の単語を意識的に考えないようにしてもらった。そしてこの課題に取り組んでいるどこかのタイミングで,駐車場にいるクジャクなど,異様な画像を見せた。

 

この結果,Nature Communications誌に報告されたように,被験者に単語の記憶を抑制するよう指示した場合は,単語を思い出すよう指示した場合に比べて,途中で見せたクジャクなどの異様な画像(2度目の単語を示す前に提示したものも後に提示したものもある)を後に想起する能力が約40%低下した。この発見は記憶を制御するメカニズムの存在を示すさらなる証拠であり,特定の記憶を積極的に忘れようとする努力によって記憶全般が抑制される可能性を示している。(続く)

 

続きは現在発売中の2016年10月号誌面でどうぞ。

 

 

再録:別冊日経サイエンス218 「脳科学のダイナミズム 睡眠 学習 空間認識 医学」

 

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