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バイオフィルムを突破する酵素〜日経サイエンス2016年10月号より

細菌軍の城壁を作る糖を断ち切って攻撃の突破口を開く作戦

 

 細菌は粘着性だ。私たちが定期的に歯科医院で歯から細菌を掻き落としてもらうのもこのため。歯垢は最もよく知られたバイオフィルムの例だが,同様の粘着性の細菌集合体は尿路感染や肺に生じる嚢胞性線維症など慢性の感染症でも重大な役割を演じている。抗生物質はベトベトのバイオフィルムを通過できず,内部に保護された病原菌に達して破壊することができない。

 

細菌はネバネバした糖とタンパク質,DNA断片を分泌してバイオフィルムを形成し,これが効果的な防御壁となる。細菌版の「城壁都市」ができるのだと,カナダにあるトロント小児病院の構造生物学者ベーカー(Perrin Baker)はいう。彼は同僚のハウエル(Lynne Howell)とともに,こうした構造を解体する方法を探ってきた。「壁に小さな穴を開け,攻撃部隊を送り込めるようにするのが目標だ」とハウエルは説明する。

 

緑膿菌の分解酵素を活用

2人は緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)に注目した。嚢胞性線維症患者の肺にバイオフィルムを作る菌で,この病気は慢性閉塞性肺疾患につながって死に至ることもある。緑膿菌はバイオフィルム中で過剰になったり絡み合ったりした糖を分解する数種類の酵素を作り出し,これを用いてバイオフィルム中に道を切り開いて移動している。ベーカーとハウエルはこれらの酵素をうまく利用できないかと考えた。

 

まず緑膿菌から2種類のバイオフィルム切除酵素を抽出し,これをシャーレ上に形成したバイオフィルムに加えた。この結果,同じシュードモナス属の細菌数種が作ったバイオフィルムの糖構造のほとんどを破壊できることがわかった。ある菌の場合,バイオフィルムの重量にして94%が2つの酵素によって分解された。最近のScience Advances誌に報告。(続く)

 

続きは現在発売中の2016年10月号誌面でどうぞ。

再録:別冊日経サイエンス221「微生物の脅威」

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