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魚雷エンジンで宇宙探査〜日経サイエンス2016年1月号より

原子力電池用の材料不足でNASAが化学エネルギーに注目

 

対潜水艦魚雷 MK-50は動力源としてSCEPSを利用している
COURTESY OF U.S.NAVY

米航空宇宙局(NASA)は最近まで,将来の深宇宙探査を危うくする深刻なプルトニウム不足に直面していた。そこで米エネルギー省は2013年,プルトニウム238の生産を25年ぶりに再開すると発表した。1969年以降に多くの宇宙探査ミッションで活躍してきた長寿命の原子力電池の基幹物質だ。

 

だが,製造中断の影響はすでに抜きがたいものになっていた。2021年までに新たに生産されるプルトニウムでは年に2.5個の原子力電池モジュールを作るのがやっとだ(火星探査車キュリオシティは1機だけで8個のモジュールを必要とした)。供給が限られるうえ在庫も少なく,木星と土星の氷で覆われた衛星の探査など今後10年に計画されているミッションをかろうじて可能にする程度だ。このためNASAは代替策を検討した。最近では海の技術に関心を寄せている。米海軍の魚雷に使われてきた軍事技術だ。

 

内蔵型化学エネルギー推進力システム

米海軍が初めて「内蔵型化学エネルギー推進力システム(SCEPS)」の実験を行ったのは1920年代にさかのぼるが,実際に配備されたのは,ペンシルベニア州立大学の工学者たちがソ連の潜水艦をとらえられるだけの速度と深度で航行できる魚雷に応用した1980年代になってからだ。

 

SCEPSはエネルギー密度の高い2つの反応剤を分離した状態で貯蔵しておき,必要になったら化学反応させてエネルギーを得る。魚雷用の場合,通常はリチウムの固形ブロックと,不活性ガスの六フッ化硫黄をタンクに保持しておく。発射されると両物質の燃焼反応によって熱が生じ,魚雷に内蔵した蒸気タービンが回って数千kWの電力を生み出す。

 

金星大気の二酸化炭素でリチウムを燃やす

NASAのシステムはこの化学的処方を少し変えたものになるだろう。ペンシルベニア州立大学の宇宙システム工学者ポール(Michael Paul)は金星への実証ミッションを提案している。SCEPSを搭載した無人着陸船が金星の大気から二酸化炭素を引き込んで,それによってリチウムを燃やす仕組みだ。発生した熱で発電機を駆動し,白熱電球3個をともすくらいの電気を生み出す。これは宇宙探査機にはかなりの電力だといえる(火星探査車のスピリットとオポチュニティーは電球1個分の太陽電池で動いていた)。(続く)

 

続きは現在発売中の2016年1月号誌面でどうぞ。

 

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