News Scan

合成リボソームで新タンパク質を〜日経サイエンス2016年1月号より

人工細胞の実現に一歩

 

 どの細胞のなかにもいわば“料理人”がいて,生命を維持するための“ごちそう”,つまり多様なタンパク質を作っている。最近,科学者たちは異質な料理人を生み出した。人工DNAに書かれたレシピに従って,抗菌物質やバイオ燃料などの役に立つ新分子を作り上げる。

 

 細胞内でコックの役割を演じているのはリボソームだ。RNAと一連のアミノ酸が一時的に結びついた2つのユニットからなっており,これらが一緒に働いてタンパク質を作り,仕事が終わると解散する。

 

合成リボソームRibo-T

 ノースウェスタン大学のジュエット(Michael Jewett)とイリノイ大学シカゴ校のマンキン(Alexander Mankin)は,生物工学者として新しいことに挑戦した。自分たちで作った合成リボソームRibo-T(リボット)の2つのユニットをつなぎ,同じ指示に従ってそのタンパク質をずっと作り続けるようにした。このように2つのユニットがつながったリボソームを持つ生物は,自然界にしろ実験室にしろ,これまで地球上に存在しなかった。

 

 だが,この新しいコックは腕がよく,緑色蛍光タンパク質を作り出した。そして,この合成リボソームのみを持つ大腸菌を作ったところ,野生株とほぼ同じだけ生きた。さらに,この大腸菌はRibo-Tを次世代に引き継いだ。「この特殊料理人は通常のリボソームの働きの解明にも役に立つだろう」とマンキンはいう。

 

新メニューへの期待

 実際,これまで知られていなかったことが明らかになった。リボソームは2つのユニットが結合・分離を繰り返さなくても機能することがわかったのだ。両者をずっとつないだままにしておいても,細胞に害はない。さらに,この人工リボソームと通常のリボソームは共存して働くことができ,一方が新しいタンパク質を生産している間に,他方は細胞の生存に必要な酵素を生産するといったことが可能だ。この研究は米国防高等研究計画局(DARPA)が医薬用分子や優れたバイオ燃料などの新物質を生産する“生きた工場”を作る取り組みの一環として研究費を出した。

 

 実験室で作られた天然には存在しない塩基対,再編成された染色体,完全に人工的に合成されたゲノム──これらはすべて近年に実現した。今回,この生物学者の合成ツールに,新しいリボソーム,つまり“非天然”のアミノ酸など新材料を使った新メニューを調理できる料理人が加わった。どんなおいしい料理ができるか楽しみだ。■

 

ほかにも話題満載! 現在発売中の2016年1月号誌面でどうぞ。

 

サイト内の関連記事を読む