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スーパーサンゴを育種する〜日経サイエンス2015年12月号より

悪環境に適応するための進化をアシストしてグレートバリアリーフに移植する構想

 

広さ約35万km2のグレートバリアリーフは世界最大の生きた構造物だ。オーストラリアの北東沖にあるこのサンゴ礁には600種を超えるサンゴに加え,何千種もの海生動物が生息している。だが,このサンゴ礁の未来は暗い。1985年から2012年の27年間で,サンゴが覆っている面積は半分に減ってしまった。

 

消失のかなりの部分は気候変動によるものと考えられる。破壊的な熱帯サイクロンが強さを増したほか,周辺の海水の温度と酸性度が上がった。保護海域の設定や水質改善などの保全活動だけでは追いつかないだろう。これ以上のサンゴの消失を防ぐため,オーストラリアの新研究施設「国立海洋シミュレーター」の海洋生物学者たちは大胆な方法を考案した。ますます環境が悪化する海でも生息可能な“スーパーサンゴ”を人工的に育種しているのだ。

 

進化をアシスト

遺伝学者バン・オッペン(Madeleine van Oppen)の研究チームは今後5年間で,同施設の33の水槽の一部を用いて地球温暖化に対応できるサンゴを育種することになる。各水槽は塩分濃度と水温,水質,酸性度を厳密に制御可能で,これによって厳しい環境に耐えられる個体を選抜できる。例えばいくつかの水槽は気候モデルが予測した今世紀後半の海の状況を再現している。高温や高酸性度に最も耐性のある種を交配し,そうした形質を備えた子孫を生み出し,次の世代へ受け継がせていく。

 

この方法は「進化アシスト」と呼ばれている。サンゴが生息域の環境変化に直ちに適応できるのならこのプロセスは自然に進むかもしれないが,残された時間が少ないため,人間が介入して変化を加速させる。「サンゴ礁の未来は非常に厳しいと予測されるので,進化アシストでサンゴ礁を救えるかどうかを調べる必要がある」とバン・オッペンはいう。

 

進化アシストは海洋生物保護の新手法であり,異論がないわけではない。例えばスーパーサンゴが在来種を駆逐するかもしれないと懸念する専門家もいる。だが,バン・オッペンの研究が成功すれば,国立海洋シミュレーターに資金提供しているオーストラリア政府はそのサンゴをグレートバリアリーフに移植する検討が可能になるだろう。サンゴ礁絶滅との競争はすでに始まっている。■

 

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