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ヒマラヤに迫るダム災害〜日経サイエンス2015年10月号より

数百のダムが建設されているが,大地震で決壊する心配がある

 

今年4月と5月にネパールで相次いで起きたマグニチュード7.8と7.3の地震は多数の建物を破壊し,8500人以上の死者と何十万人もの負傷者を出した。また,いくつかの水力発電ダムに亀裂が入るなどの損傷が生じ,別の危機が差し迫っていることを見せつけた。ダムの決壊だ。

 

地質活動が活発なヒマラヤ山脈に存在する大型ダムの数は建設中・計画中を含め600を超える。だが,地震学者や土木技術者によると,同地域で起こりうる最悪の地震に耐えられるように設計されたものは少ないと考えられる。どれかが決壊すれば,湖まるごとひとつ分の水が下流の町や都市に押し寄せる。例えば中部ヒマラヤの断層上にあるテーリダムが決壊すると,高さ約200mの水の壁が2つの都市を襲い,6つの都市域に住む合計200万人に被害をもたらすだろう。

 

遅かれ早かれM8

地震モデルによると,今回よりもさらに大きな地震が今後数十年のうちにヒマラヤを襲う可能性が高い。インド亜大陸はチベット高原にぶつかり,100年に約1.8mのスピードでその下に潜り込んでいる。ただ,通常はこの動きはつっかえている。障害がなくなると,チベット高原側のプレートの一部が南に数m動き,蓄積されていたエネルギーが解放されて地震となる。

 

今年の2度のネパール地震によって震源西側の領域が不安定化したと,仏原子力・代替エネルギー庁の地震学者ボランジェ(Laurent Bollinger)は指摘する。この不安定化の結果,M8以上の巨大地震が遅かれ早かれ起こる可能が高まる。また別の研究から,今回の地震で解放されたのは断層のストレスのほんの一部にすぎないとみられ,今回と同等またはそれ以上の規模の地震によって断層の再調整が起こると予想される。「それがM8の地震としてすぐに起こるか,それとも200年後のM8.7になるか,誰にもわからない」とバンガロールにあるインド科学産業研究委員会(CSIR)フォースパラダイム研究所のガウアー(Vinod K. Gaur)はいう。

 

甘い想定

このように地震活動の活発な地域で,高さ15m以上のダムの建設あるいは計画が数百件も進行している。ほとんどは水力発電用で,電力をインドや中国に供給する。政府資金で続々と建設されるこれらのダムは,すでに完成したものも含め,どれも超巨大地震の強い揺れに耐えられるものでなければならないと,国際大ダム会議(構造基準を勧告する技術者団体)のウィーランド(Martin Wieland)はいう。どの国も基準を設けてはいるが,インドと中国はダムの設計に関するデータを国際社会に公開したがらない。独立の立場にある技術者がダム構造の強度評価を許可されることはまれで,許可された少数のケースでは,その評価結果は不安だらけだ。(続く)

 

続きは現在発売中の10月号誌面でどうぞ。

 

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