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ラガービールの味が多様に?〜日経サイエンス2015年9月号より

新たな酵母が数百年ぶりに登場

 

 

Triumph Brewery’s Honey Blonde/Rhys A.

ラガービールはつまらない。どの缶を開けても,サッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)という同じ酵母に属する系統(通称「ラガー株」)による風味ばかり。エールビールとワインの醸造に使われている少数だが多様な酵母が様々に異なる代謝産物と風味を生み出すのに比べ,ラガー株酵母の遺伝的多様性は比較にならないほど乏しいのだ。

 

実際,ラガービールは見た目も味も数百年間ほとんど変わっていない。新たな醸造特性と風味を持つ酵母株を作り出すのが難しいためだ。異なるラガー株をかけ合わせたハイブリッドは実質的に一代限りで,有性生殖しない。だが,その状況が変わろうとしている。

 

ラガー株酵母の“両親”が判明

このグッドニュースを飲み干すには,15世紀のラガービールの誕生に立ち戻る必要がある。ラガー株のパストリアヌス菌が生まれたのは,ドイツのバイエルン地方の冷たく暗い洞窟に修道僧たちがビールを貯蔵し始めた際に(ちなみにラガーは「貯蔵する」という意味),2種類の酵母が偶然に交配した結果だったようだ。

 

親となった2つのうち片方は出芽酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)であることが,1980年代にわかった。パン作りや醸造に使われているすべての酵母の母となった菌(真菌)だ。もう片方は長らく不明だったが,2011年にアルゼンチンの微生物学者リブキンド(Diego Libkind)がパタゴニアの森林にいるサッカロミセス・ユーバヤヌス(Saccharomyces eubayanus)という酵母を同定,これがセレビシエ菌の相方だったと判明した。

 

ユーバヤヌス菌の野生株は醸造にはあまり向いていないが,この発見は新たな酵母株を育種する可能性を開いた。フィンランド技術研究センター(VTT)で醸造用酵母を研究しているギブソン(Brian Gibson)は「ユーバヤヌス菌の発見で話は急に面白くなってきた」という。

 

親株をしのぐハイブリッド酵母

ギブソンらは最近,セレビシエ菌とユーバヤヌス菌のかつての交配を再現することに成功した。さあ,ラガービール愛好家の皆さんは祝杯をあげるがよい。「いまや,これまでとまったく異なるラガー株酵母を作れるようになった」とギブソンはいう。Journal of Industrial Microbiology & Biotechnology誌に報告されたように,作られたハイブリッド酵母はいずれも親株をしのぐ特性を持っており,アルコールをより速くより高濃度に作り出し,できたビールの味もよかった。(続く)

 

続きは現在発売中の9月号誌面でどうぞ。

 

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