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記憶が存在する場所〜日経サイエンス2015年6月号より

シナプスなしで残る記憶があるらしい

 

記憶はつかみどころのないものに思えるが,生物学的には確かな根拠がある。神経科学の教科書によると,隣り合う脳細胞がシナプス(細胞間の接合部)を介して神経伝達物質を送ると記憶が形成される。記憶が想起されるたびに,このシナプスが再び活性化し,強化される。

 

シナプスが記憶を保存しているというこの考え方は100年以上にわたって神経科学を支配してきたが,カリフォルニア大学ロサンゼルス校のチームによる最近の研究は,これを根本的に覆すかもしれない。記憶は脳細胞の内部に存在するというのだ。この研究が裏づけられれば,苦しみの鮮烈な記憶にさいなまれる心的外傷後ストレス障害(PTSD)を治療するうえで大きな意味を持ちそうだ。

 

10年以上前,PTSDの治療に「プロプラノロール」という薬を使う研究が始まった。プロプラノロールは,長期記憶の保存に必要なタンパク質の産生を邪魔することによって,記憶形成を阻止すると考えられていた。だが残念なことに,この研究はすぐに暗礁に乗り上げた。トラウマ事象の直後に投与しないと効果がなかったのだ。

 

そこで,この欠点を回避する方法が考案された。記憶を想起した際には,再活性化されたシナプスが強化されるだけでなく,一時的に変化の影響を受けやすくなることが示唆されている。記憶の「再固定化」という過程だ。この間に,プロプラノロールを投与(おそらくは心理療法や電気的刺激,他の薬などを併用)すれば,再固定化を阻害して,そのシナプスから記憶を即座に消去できるだろう。

 

消えたかに見えた記憶が回復 

カリフォルニア大学ロサンゼルス校の神経科学者グランツマン(David Glanzman)はこの可能性に着目し,神経科学の研究でよく使われるアメフラシを用いてこのプロセスを調べ始めた。アメフラシに弱い電気ショックを与え,その出来事の記憶を新たなシナプスとして脳内に発現させた。これらのニューロンを取り出してシャーレに移し,化学的な刺激によって電気ショックの記憶を引き出した後,すぐにプロプラノロールを加えた。(続く)

 

続きは現在発売中の6月号誌面でどうぞ。

 
 
再録:別冊日経サイエンス207「心を探る 記憶と知覚の脳科学」
再録:別冊日経サイエンス218 「脳科学のダイナミズム 睡眠 学習 空間認識 医学」

 

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