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赤ん坊の泣き声〜日経サイエンス2015年2月号より

哺乳動物の子が助けを求める泣き声は驚くほどよく似ている

 

鋭い泣き声が響き渡ると,心配した母鹿がすぐに音の発生源に駆け寄ってわが子を探した。だが,その音は子鹿の声ではない。スピーカーから出たオットセイの子の泣き声だ。

 

シカとオットセイが同じ場所に暮らすことはないので,母鹿がオットセイの赤ん坊の泣き声を知っているはずはないと,この実験を行ったウィニペグ大学(カナダ)の生物学者リングル(Susan Lingle)とミッドウェスタン大学の生物学者リーデ(Tobias Riede)は考えた。ではなぜ,母鹿は心配して反応したのだろう?

 

2人はカナダの農場で2回の夏にわたり,ミュールジカとオジロジカの群れに様々な哺乳動物の子の泣き声を修正した録音を聞かせた。エランドやマーモット,コウモリ,オットセイ,アシカ,イエネコ,イヌ,そしてヒトの子供などの泣き声だ。母鹿の反応を観察した結果,基本的な周波数が自分の子の泣き声と似ている限り,母鹿は自分の子を探すかのようにスピーカーに近づいてくることがわかった。これは幼い哺乳動物の泣き声に深い共通の特徴があることを示している(母鹿はホワイトノイズや鳥の鳴き声,コヨーテの吠え声には関心を示さなかった)。この発見はAmerican Naturalist誌10月号に報告された。

 

意外ながらも必然

異なる動物でも似たような状況(例えば痛いときなど)で出す声には共通の特徴があるとされてきた。「私たち人間も,幼い動物の泣き声に“同情”することが多い」とリングルはいう。この共感は,哺乳動物が似たような声で感情を表しているために生じるのかもしれない。

 

コミュニケーションの進化を研究している英サセックス大学の心理学者レビー(David Reby)は,今回の発見には驚かないという。幼い動物にしてみれば,自分の生存の確率を高めてくれそうな保護者なら誰でもいいから注意を引きつけておくのがよい。そして保護者にとっても「助けを求めるわが子の声にどこか似ている声に反応することは,おそらく有利に働くだろう」とレビーはいう。天敵に襲われている場合,助けを求めているのが自分の子かどうかを見極めている時間はない。泣き声を無視する代償はあまりに大きすぎる。(続く)

 

続きは現在発売中の2月号誌面でどうぞ。

 

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