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植物抗体〜日経サイエンス2015年2月号より

plantibody植物によって生産されたヒト抗体

 

去る夏,エボラ出血熱ウイルスに感染した2人の米国人にマップ・バイオファーマシューティカルが開発した実験段階の薬が投与された。この薬が寄与したかどうかははっきりしないものの,2人とも生存している。「Zマップ」というこの薬はエボラウイルスに結合する複数の抗体の混合物だ。そして,これらの抗体は植物のタバコによって作られた。

 

植物は自分が利用する抗体を作ってはいないが,感染と戦うこれらのタンパク質を作る仕組みは持っている。これを利用する可能性が1989年に気づかれ,植物のタバコの生化学機構を用いてヒト抗体が合成された。以来いくつかのバイオ企業がエボラ出血熱や狂犬病などの病気を治療可能な植物抗体の開発に取り組んできた。

 

植物抗体の生産法は簡単だ。不活化したウイルスに抗体の遺伝子を挿入し,このウイルスを植物の葉に感染させる。植物はこのDNAに基づいてヒト抗体を作り出す。1週間ほど後にこれを抽出する。

 

全プロセスは1カ月あまりですみ,ハムスターの卵巣細胞を用いる標準的な方法よりも速く,費用もかからない。「植物は基本的には土と水さえあれば育つ」とロンドン大学セント・ジョージ医学校の免疫学者マー(Julian Ma)はいう。

 

簡単であるにもかかわらず,植物抗体の製造は広がっていない。製薬大手のほとんどは卵巣細胞を用いる方法に巨額の投資をしてきたので製法の転換に消極的なのだとマーはいう。植物抗体医薬がいくつか認可されて実用化するまでは,小規模のバイオ企業が製造を担うことになりそうだ。

 

開発中の植物抗体にはHIVやヘルペス,がん,狂犬病を標的にするものがある。Zマップは臨床試験に入る準備がほぼ整っている。エボラウイルスに感染させたサルを使った最近の実験で有効性が確認された。専門家は植物抗体の商品化は少なくとも5年先になるとみているが,この予測は変わるかもしれない。米保健福祉省は去る9月,Zマップの臨床試験を加速し,期間を18カ月に短縮したいと発表した。■

 

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