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ホビット10年,なお続く論争〜日経サイエンス2015年1月号より

新種のこびと人類なのか,それとも…

 

人類の起源に関する研究では,長年の論争がなかなか決着しないのが常だ。

 

2004年10月,1万7000年前まで生存していた新種の人類の化石がインドネシアのフローレス島で見つかったと発表された。“ホビット”の愛称で知られるこのホモ・フロレシエンシスは一躍注目の的となった。身長たった1m少しで,脳の大きさが私たちの1/3しかないこの人類は,多くの点で320万年前のアファール猿人ルーシーと同じくらい原始的だ。だがホモ・サピエンスと同時期に存在し,比較的高度な石器を作り,火を使い,大型動物を狩猟していたらしい。いずれも知的に進んだ人類の特徴だ。

 

この矛盾を重視した懐疑派はただちに,この人骨は新種の人類ではなく,病気のホモ・サピエンスのものだと反論した。こうして論争が始まり,現在も続いている。

 

ダウン症説,甲論乙駁

最近,懐疑派が新たな反論を打ち出した。豪アデレード大学のヘンネバーグ(Maciej Henneberg)らは米国科学アカデミー紀要8月号に掲載された論文で,この発掘現場で見つかった最も完全に近い標本(LB1として知られる)はダウン症の兆候を示していると主張している。LB1の頭蓋骨の周長が小さいことなどを,その根拠とした。

 

ホビット説に立つメンバーはすぐにダウン症説を否定した。ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校のジャンガース(William Jungers)は,LB1ほど頭囲の小さなダウン症患者の例は古人類についても現代人についても知られていないと指摘する。またダウン症患者には,前方に突き出た顔面中央部や厚い頭蓋壁などLB1が持つ他の特徴が見られない。

 

だがLB1がダウン症ではなかった場合にも,LB1がその奇妙な特徴を生み出す別の病気を患っていた可能性は残る。脳の進化を研究しているインディアナ大学ブルーミントン校の自然人類学者シェーネマン(Thomas Schoenemann)は, LB1に特定の発達異常の特徴が見られない限りLB1を新種として扱うべきだとするホモ・フロレシエンシス支持者の主張を問題視する。「他の人類の化石と比較してLB1の奇妙さがこれほど際立っていることを考えれば,この主張には合理性がない」。

 

「本当に必要なのは,より多くの標本と,LB1がアウストラロピテクスの特徴を100万年以上維持しながらフローレス島にやって来た道のりを示す痕跡だ」とシェーネマンはみる。いまも続くフローレス島での発掘作業からは,新たな小さな頭蓋骨はまだ出てきていない。■

 

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