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大型動物ががんを抑える方法〜日経サイエンス2014年12月号より

ウイルスのゲノム侵入を抑えているようだ

  

 現在71歳になる英オックスフォード大学の疫学者ピート(Richard Peto)は40年前,どの細胞もがんになる確率が等しいとすると,大きな動物は小型動物よりも高い割合でがんになるはずだと考えた。大型動物のほうが細胞の数が多く一般に寿命も長いからだ。だがピートがこの考えを検証したところ,自然界ではそうなっていないことがわかった。どの哺乳動物も,がんになる率はほぼ等しい。

 

 この「ピートのパラドックス」を説明する様々な説が提唱された。ある説は,小動物は代謝が速いので,がんの原因となるフリーラジカルが多く作られるという。別の説は,進化の過程で大型動物にはがん抑制遺伝子が余分に備わるようになったとみる。そしてオックスフォード大学の進化生物学者カツォウラキス(Aris Katzourakis)は,動物にはDNAに飛び込んできたり飛び出していったりするウイルスを抑制する能力があり,それがこのパラドックスの一部を説明するかもしれないと考えている。この仮説はPLOS Pathogens誌7月号に掲載された。

 

 このようなジャンプするウイルスは「内在性レトロウイルス」と呼ばれ,感染した宿主のゲノムに自らの遺伝子を組み込んで,がんの原因となる変異を生じる場合がある。これらのウイルスは何百万年にもわたって動物とともに進化してきたので,大半の脊椎動物(ヒトも含む)はゲノムの5~10%がそうしたウイルスに由来している(ただし,そのほとんどは不活性)。

 

大きな動物ほどゲノム内在ウイルスが少ない

 がんのリスクに内在性ウイルスがどれほど関与しているかを知るため,カツォウラキスらは38種の哺乳動物について,体の大きさと,過去1000万年間にゲノムに組み込まれた内在性レトロウイルスの数との関連を調べた。この結果,動物が大きいほど,獲得した内在性レトロウイルスの数が少ないことがわかった。例えばマウスが獲得したレトロウイルスは3331だが,ヒトは348,イルカは55だった。

 

 大きくて長生きの動物は,これらのウイルスの数を制限する防護メカニズムを進化させたようだ。ピートは今回の研究には加わっていないが,「動物が大きな体を進化させるには,がんへの抵抗性も大きくする必要があった」という。(続く)

 

続きは現在発売中の12月号誌面でどうぞ。

 

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