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現実になる仮想現実療法〜日経サイエンス2014年12月号より

手ごろなヘッドセットの登場でVR暴露療法が医療現場に

 

 南カリフォルニア大学のリッツォ(Albert “Skip” Rizzo)は1993年,バーチャルリアリティー(仮想現実,VR)を心理療法に利用する研究を始めた。それ以来,リッツォ自身の研究も含め数十件の研究によって,仮想世界にひたらせるこの技法が心的外傷後ストレス障害(PTSD)から不安障害,恐怖症,依存症まですべてに有効だと示されてきた。

 

 だが実用的なハードウエアがないため,臨床医はVRに手が届かないままだ。VRヘッドセットに求められる要件は単純に思える。高解像度・高速反応の画面によって自分が別世界にいると思わせるだけの広い視野を提供でき,手ごろな値段であればよいだろう。だが,そうした製品はなかった。「不満がつのる20年間だった」とリッツォはいう。

 

 2013年,「オキュラス・リフト」というヘッドマウントディスプレーの試作機が登場し,VRは消費者の注目を集めた。これを発明したラッキー(Palmer Luckey)の目標は没入型ビデオゲームのプラットフォームを作ることだったが,医療や航空,観光など多くの業界の開発者が思い思いに別の利用法を探っている。リフトの応用範囲は非常に幅広いため,オキュラス(現在はフェイスブックの傘下)は9月,開発者向けの会議を開いた。

 

PTSDの治療に

 2015年発売予定のリフトは,ほとんどがスマートフォンに使われている画面など既製の部品でできている。多軸モーションセンサーで装着者の頭の動きをとらえ,これに応じて画面を逐次更新する。350ドルという低価格も魅力だ(実験室で使われているVRシステムは2万ドル以上)。

 

 リッツォもいち早く入手を望んでいる。彼はPTSD治療への利用を考えている。2010年の研究で,戦場など心的外傷のもとになったのと似たVR環境に患者を置き,そうした状況が引き起こす感情に患者を対峙させて,それにうまく対処できるよう訓練した。リッツォの自作VR装置で10回の治療訓練を受けた20人の被験者のうち16人は,不機嫌や抑うつなどの症状が軽減し,その後3カ月間にわたってそのレベルを維持した。オキュラスが最終モデルに近いリフトを8月から研究者に提供し始めたことで,リッツォはそれを利用した実験に進むことが可能になる。(続く)

 

続きは現在発売中の12月号誌面でどうぞ。

 

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