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シャーレのなかの精神病〜日経サイエンス2011年10月号より

病んだ神経細胞を再現して研究することが可能に

 

 人間の臓器のうち脳ほど研究しにくいものはない。肝臓や肺,心臓からは細胞を取り出して調べられるが,脳の生検試料を得るのは様々な理由から難しい。生きた脳細胞の働きを観察することができないため,精神疾患の研究はなかなか進んでこなかった。だが最近,新たな方法が見つかり,統合失調症や自閉症,双極性障害などの研究と治療に革命をもたらす期待が高まっている。
 ソーク生物学研究所(カリフォルニア州ラホーヤ)の研究チームは統合失調症患者の皮膚細胞をiPS細胞(人工多能性幹細胞)に変え,それらの幹細胞をニューロンに成長させた。これにより,人間の統合失調症を細胞レベルでリアルタイム観察することが初めて可能になった。またスタンフォード大学のチームは,幹細胞を経由せずに人間の皮膚細胞を直接ニューロンに変えることに成功した。これはさらに効率的な手順になる可能性がある。いずれの研究成果も最近のNature誌に発表。

 

接続が少ない統合失調ニューロン
 同種の「病態モデル」はこれまで,鎌状赤血球貧血や心臓不整脈の研究に使われてきた。しかし遺伝学的に複雑な神経精神疾患の研究に応用したのは,神経科学者のゲイジ(Fred Gage)が率いるソーク研究所のチームが初めてだ。統合失調症患者の皮膚細胞から誘導したニューロンは健康な人の誘導ニューロンに比べ,相互接続が少なくなることを同チームは発見した。また,この接続不足を600個近い遺伝子の発現の変化と関連づけて示した。600個は以前に想定されていた数の4倍にのぼり,多くの遺伝子が関連している可能性が示された。この手法を使えば,様々な治療薬のなかから患者に最も効果的な薬を選び出すなど,治療の改善につながるだろうとゲイジはいう。
 研究はまだ予備的な段階だが,多くの神経科学者の熱い期待を集めている。「この研究によってまったく新しい分野が開かれる」と米国立精神衛生研究所で遺伝子・認知・精神病プログラムを率いるワインバーガー(Daniel Weinberger)はいう。幹細胞を利用する手法からどんな答えが得られるかまだはっきりはしないが,これまでは問うことのできなかった疑問に取り組むことが可能になった。

 

ほかにも話題満載! 日経サイエンス2011年10月号 

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