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さなぎの浮き船〜日経サイエンス2014年7月号より

子供たちを筏にして洪水を脱するアリがいる

 

 「アリの巣は露一滴で大洪水」という言い回しがあるが,洪水がよく起こる氾濫原にすむアリにとっては露一滴などまるで問題ではない。ある種のアリは本物の洪水がやってくると巣から逃げ出し,寄り集まって自分たちで筏(いかだ)を作って乾いた土地へ流れ着く。こうした群れ行動はアリによく見られ,多くの個体で橋を作ってその上を仲間に渡らせるアリもいる。

 

 筏を組むのはヒアリ(カミアリ)に見られる行動だが,スイスにあるローザンヌ大学の研究チームは別種のアリが作る筏の設計に奇妙な点を発見した。若いアリを筏の底にするのだ。こうして赤ちゃんアリを浮きに使っても,アリの子孫繁栄は思ったほど脅かされない。

 

フォルミカ・セリシの子供たち

 フォルミカ・セリシ(Formica selysi)というこのアリは氾濫原に生息し,ピレネーおよびアルプスの山岳地帯全域に見られる。女王アリの寿命は10~15年で,その間にノアの箱船級の洪水を2回か3回ほど経験する。洪水になると,働きアリは卵や幼虫,さなぎを集めて積み重ね,その上に働きアリが登ってこれらの子供たちにかじりついて,3~4層に重なる。女王アリは最も安全な筏の中央に場所を取る。

 

 溺れる危険の最も大きな船底に子供たちを配置するのは,よい方策には思えない。何といっても,子供たちは女王アリと同じくコロニーで最も大切なメンバーだ。彼らが生き延びなければ種が絶える。「ふつうに考えたら,働きアリは子供たちを女王アリとともに筏の中央に置くはずだ」と,この研究を率いたポスドク研究員パーセル(Jessica Purcell)はいう。

 

 パーセルらはスイスのローヌ川岸で採集したフォルミカ・セリシを使い,研究室で洪水の状況を模倣した。人工洪水のもと,アリは子供の有無によらずどれも筏を作った。手近に子供がいない場合は,働きアリが船底になった。洪水が収まった後,子供なしで作られたこの筏の働きアリは動きが鈍く,元の状態に回復するまでに時間がかかった。フォルミカ・セリシが浮力の大きな子供たちを筏の底に使うのは,これで説明がつくかもしれない。(続く)

 

【動画】フォルミカ・セリシがさなぎでイカダを作る様子を下から再生したもの

Formica selysi- Raft formation with sexual brood, filmed from below from Jessica Purcell on Vimeo.

 

続きは現在発売中の7月号誌面でどうぞ。

 

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