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ホーキングのブラックホール〜日経サイエンス2014年7月号より

COURTESY OF J. SCHNITTMAN NASA Goddard Space Flight Center, J. KROLIK Johns Hopkins University

AND S. NOBLE Rochester Institute of TechnologY

数十年越しのパラドックスが再び

 

 今年初めホーキング(Stephen Hawking)が「ブラックホールは存在しない」と語ったと報じられた。このとき彼が語っていたのは,私やあなたが思い浮かべるあのブラックホールではない。光を含めすべてをのみ込んでしまうご存じのあの天体は,誰もが認めるように,これまでどおり真っ黒なままだ。

 

 ホーキングが問題にしていたのは高度に理論的な意味でのブラックホールだ。他の多くの理論家と同じく,ホーキングも物理学の中核を蝕むパラドックスを解決しようとしてきた。「ブラックホール・ファイアウォール・パラドックス」と呼ばれる問題だ。このパラドックスによると,量子力学かアインシュタインの一般相対性理論のどちらかまたは両方を放棄(あるいは大幅修正)する必要に迫られる。

 

情報のパラドックス

 ファイアウォール問題はホーキングが1970年代に初めて指摘したパラドックスに関係している。「ブラックホールに落ち込んだ情報はどうなるのか」という問題だ。量子力学のルールによれば,情報は決して失われることがあってはならない。1冊の本を燃やしても,そこに書かれていた情報が消え失せることはなく,単にごちゃ混ぜになるだけだ。これに対しブラックホールは情報を破壊してしまうように思える。後戻りのできない「事象の地平線」を越えて吸い込まれたものは,それきり永遠に消失する。

 

 この「ブラックホール情報パラドックス」は物理学者を20年にわたって悩ませたが,1990年代後半に解決したと思われた。情報が「ホーキング放射」という形でブラックホールから外に漏れ出しうると考えられるのだ。ところが2012年になって,カリフォルニア大学サンタバーバラ校の物理学者たちがこの解に欠陥を見つけた。彼らは事象の地平線がそれまで考えられていたような通常の場所ではないと結論づけた。外側のホーキング放射と内側の物質が量子レベルでもつれ合うのを阻む防火壁(ファイアウォール)だという。

 

2つの地平線

 ホーキングは最新の研究で,これに代わる解を提示しようと試みている。彼はブラックホールが事象の地平線に加えて「見かけ上の地平線」を備えていると唱える。これら2つはほとんど同一で,ブラックホール内部の情報は「見かけの地平線」まで上ってくることがある。そのとき,量子効果によって「見かけの地平線」と「事象の地平線」の境界がぼやけ,情報の脱出を許す場合があるという。(続く)

 

続きは現在発売中の7月号誌面でどうぞ。

 

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