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氷上の地質学~日経サイエンス2014年3月号より

スコットランド産の花崗岩がカーリングに最適な理由

 

 2月にロシアのソチで冬季オリンピックが開幕すると,背筋が凍るような危険なシーンを山ほど目にすることになるだろう。アルペンスキーの滑降選手は時速130kmで斜面をターンし,アイスホッケーの選手は互いに激突し,スノーボードの選手は1回のジャンプで何度も回転ひねり宙返りをしてみせる。

 

 それに比べると,カーリングには派手なアクションはない。重さ44ポンド(約20kg)の石を氷上に押し出して滑らせ,ブルームというほうきのような道具で氷を掃いて,石を標的に向かって“カール”させる。

 

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 カーリングがオリンピックの公式種目になったのは1998年でまだ日が浅いが,競技に使われるストーンには長くて意味深い歴史がある。「オリンピックで使われるストーンはどれも,アルサクレイグ島というスコットランド沖の小島で採れた石だ」と米国のカーリング女子チームのスキップ(主将)を務めるブラウン(Erika Brown)は説明する。「アルサクレイグの石の曲がり方は他の石では真似できない」。

 

 スコットランド本土から10マイル(16km)ほどのところにある面積1km2弱のこの小島は,極上のストーンに使われる2種類の花崗岩の産地だ。1つはブルーホーン花崗岩で,氷と接して滑る下側の層になる。もう1つは一般的な緑色花崗岩で,こちらはストーンの中間層,つまりストライキングバンド(他のストーンとぶつかる部分)になる。

 

 「氷と接する層は欠けることも水を吸うこともない。でも最も重要な点は,氷上での挙動を正確に予測できること。投げたストーンがどうなるかがわかる」とブラウン。「そして中間層は他のストーンとぶつかっても壊れない」。

 

 

急冷マグマが理想的な花崗岩に

 ストーンのこの優れた性能は,約6000万年前のアルサクレイグ島のでき方に由来している。この島は大量のマグマが地層を貫いて上昇した「貫入岩体」なのだと,英グラスゴー大学の地質学者フェイスフル(John Faithfull)は説明する。そのマグマが比較的急速に冷えて花崗岩になるとともに,周囲の岩は侵食によってなくなり,「侵食に非常に強い硬い岩だけが海面から突き出してアルサクレイグ島となった」。

 

 この火成岩は結晶化の際に,強靱で均一な岩になった。「マグマが急速に冷えると,非常に小さな結晶ができる。それらが互いに入り組み,結晶の間に化学結合が発達した」と英国地質調査所の地質学者ギレスピー(Martin Gillespie)はいう。この花崗岩には「小さなひび割れもまったくないようだ」。

 

 こうしたユニークな特性がアルサクレイグ島のカーリングストーンを“特級品”にしているとブラウンはいう。「カーリングをする私たちにとって,この島は聖地なの」。■

 

 

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