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味覚なしマウスは精子が異常に~日経サイエンス2013年12月号より

感覚に関する遺伝子の欠損が生殖細胞に影響

 

 マウスが健康な精子を作るには,生殖とはまったく異なる目的の遺伝子が必要らしい。味覚を可能にしている遺伝子だ。これはさほど驚くにはあたらない。過去10年で,かつては口と鼻にしかないと考えられていた味覚と嗅覚の受容体が脳や腸,腎臓など全身の至る所で発見された。しかし,そんな場所でこれらの受容体が何をしているのかはいまだに謎めいており,それは7月の米国科学アカデミー紀要に掲載されたこの精子の研究でも同様だ。

 

奇妙な発見

 今回の思いがけない発見は,数年前に始まったある実験に端を発する。フィラデルフィアにあるモネル化学感覚センターの味覚研究者モジンガー(Bedrich Mosinger)は,甘味と旨味の感覚に必要な2種類の受容体を欠いたマウスを交配によって作ろうとした。片方の受容体を持たない親どうしを交配させれば,受容体を両方とも欠いた子供がいくらかは生まれるだろうと考えた。だが何度繰り返しても,そんなマウスは1匹も生まれなかった。

 

 不思議に思ったモジンガーらは,その原因がオスのマウスにあることを突き止めた。メスは味覚受容体を作らない形質を子供に伝えたのに対し,オスは伝えられないのだ。「これは非常に奇妙で,とても驚いた」とモジンガーはいう。

 

 味覚に関するこれらの遺伝子が精子にどう影響するかを調べるため,片方の受容体の遺伝子を欠損したオスのマウスを作り,もう一方の遺伝子のスイッチをオフにする薬を与えた。このマウスの精子を調べたところ,メチャメチャになっていた。精子の頭部は曲がって往々にして大きすぎ,尾はねじ曲がりからまっていた。2つの味覚受容体遺伝子の発現を止めたことで,精子を作る機構がなぜか壊れてしまったのだ。

 

 精子には苦味受容体と匂い受容体があることが知られており,卵子から放出される化学物質を感知している可能性が高い。だが,そうした受容体が精子の発達に影響しているらしいという考え方は初めてだと,ワシントン大学(セントルイス)のベン=シャハー(Yehuda Ben-Shahar)はいう。味や匂いの受容体が見つかっているその他の細胞や臓器では通常,「細胞が成熟した後に,それらの受容体が周囲の環境と相互作用し始める」とベン=シャハーはいう。「この種の遺伝子がこれほど早期段階の生物系に影響している例は,私が知る限り初めてだ」。(続く)

 

続きは現在発売中の12月号誌面でどうぞ。

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遺伝学