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ITに使えるテレポーテーション~日経サイエンス2013年11月号より

デジタル情報をアナログで転送,量子暗号通信や量子計算で利用可能に

 

 最初の量子テレポーテーション実験がどれかは,しばしば議論になる。一般には1997年のバウミースター(Dik Bouwmeester)らの実験とされるが,転送の効率が非常に低い上,転送が確実に行えないという問題があった。カリフォルニア工科大学のキンブル(H. Jeff Kimble)教授らは,この方法だと転送できたかどうかを事後に確認する必要があるが,そのための測定をすれば光子は失われると指摘。転送した光子を利用できず,「テレポーテーションを後づけで確認することしかできない」と批判した。

 当時,同教授の研究室にいた古澤明東京大学教授は,「その時から,いずれ光子の状態を確実に転送する実験をしようと思っていた」と話す。その実験がこのほど,古澤教授と大学院生の武田俊太郎さんによって行われ,8月15日付のNatureに掲載された。

 

 実験では,確実に状態が転送された光子を,従来の100倍以上の61%の高効率で得ることができた。そのまま別の情報処理に用いることができ,量子暗号通信の中継器や,量子テレポーテーションを利用する量子コンピューターなど,さまざまな量子情報技術への応用が可能だという。

 

 光子の量子テレポーテーションは,一般に以下の手順で実行する。①量子もつれになった何らかの物理系を,送信者(アリスと呼ぶ)と受信者(ボブと呼ぶ)が1つずつ持つ。②アリスがテレポートしたい光子と,もつれた物理系の一方を一緒に測定する(ベル測定)。③測定結果をボブに古典的な方法で伝え,それに合わせてボブが手元の物理系を操作する。④ボブの物理系にアリスの光子の量子状態が現れ,テレポーテーションが完了する。

 

 これまで行われた実験の多くは,転送を担う量子もつれ物理系として,光子のペアを使っていた。だが量子もつれ光子ペアが生成されるのは確率的なプロセスで,その効率は極めて低い。またベル測定の結果をもとにボブが実際に物理系を操作するのは難しいので,ボブが特別な操作をしなくても転送されるケースにのみ着目していた。それが起きる確率は1/4で,あとの3/4のケースは失敗とみなして捨てていた。

 

アナログな物理量を転送

 一方,古澤教授らの方法では,量子もつれの生成とベル測定に基づく操作を,ともに100%の確率で実行できる。最大の理由は,転送を担う量子もつれ物理系として,光子ペアではなく2つの光ビームを用いたことだ。いわば,アリスが持つ光子1個の状態をビームの大量の光子で薄く広く分担して転送するような仕組みだ。(続く)

 

続きは現在発売中の11月号誌面でどうぞ。

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