News Scan

微生物界のミステリー〜日経サイエンス2013年10月号より

抗生物質がどのように細菌を殺すのか,いまだに正確にはわかっていない

 

 微生物は思いのほか複雑な生き物だ。科学者たちはずっと,抗生物質が細菌を殺す方法は様々でそれぞれ特異的なのだと考えてきた。あるものは細菌のDNA複製を抑制し,またあるものは細菌のタンパク質合成を阻害するといった具合だ。

 

 いや違うと異を唱えたのが,ボストン大学の生物医学工学者コリンズ(James Collins)だった。彼は2007年,そうした特異的なメカニズムが原因ではないことを示す論文を発表した。抗生物質はもっと一般的なメカニズムで,つまり活性酸素種として知られる分子の細胞内濃度を上げ,それによってDNAが決定的に傷つくことによって,細菌を殺していると考えられた。

 

 だが最近,コリンズのこの説は反論に包囲されている。3月,2つの研究チームが別々に,酸素欠乏状態でも抗生物質が細菌を死滅させることをScience誌に発表した。酸素なしでは活性酸素種は生じないから,もしコリンズ説が正しいなら,これは起こりえない。この2チームはまた,遺伝子操作によって本来の抗酸化物質(活性酸素種から保護する物質)を作れなくした細菌も,抗生物質への感受性は通常の細菌と変わらないことを発見した。

 

予想外に複雑で

 この乖離をどう解釈すべきか? Nature Biotechnology誌5月号に掲載された論評は,各チームの用いた実験器具と実験手順が異なっていたため,細菌が実際にさらされた酸素濃度も様々で,結果は無効かもしれないと指摘した。また別の研究は,コリンズのグループが活性酸素種を標識するのに用いた分子マーカーは他の無害な分子とも結びついて蛍光を発するので不適切だとみる。

 

 さらにワシントン大学(シアトル)のゲノム科学者マノイル(Colin Manoil)は,コリンズらが単に自らの実験結果の解釈を誤っているのではないかと懸念する。「原因か結果かの問題だ」とマノイルはいう。死にかけている細菌が活性酸素種を実際に作り出しているとしても,それは差し迫った死が招いた結果であって,原因ではないかもしれない。

 

 この件は,細菌でさえ予想外に複雑であるとことを再認識させてくれる。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の微生物学者でScience誌の一方の掲載論文の共著者でもあるイムレイ(James Imlay)は「期待される厳密さを欠く実験法に頼らねばならない場合もある」という。「いまだに暗闇の端で手探りするような状態がときどきあるのだ」。■

 

ほかにも話題満載! 現在発売中の10月号誌面でどうぞ。

サイト内の関連記事を読む