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不確定性原理で電子の記憶を消す〜日経サイエンス2013年5月号より

電子は位置を測定すると角運動量を忘れ,干渉する性質を取り戻す

 

 並んだ2つのスリットに向けて電子を飛ばし,その先のスクリーンで受け止める。最初はただ電子の跡がポツポツと散らばっているように見えるが,次第に縞模様がくっきりと浮かび上がる──。日立製作所の故外村彰博士が,後に「最も美しい」と評されることになるこの有名な実験を行ったのは,1989年のことだ。あれから4半世紀を経て,名古屋大学と埼玉工業大学のグループがこのほど,新たな電子の2重スリット実験を実施した。

 

 実験の基本的な形は同じ。ただし右のスリットを通る場合と左のスリットを通る場合とで,電子にそれぞれ逆向きのらせん運動をさせる。このときスクリーンには何が見えるだろうか?

 

 グループ内でも予想は割れた。実験を率いた齋藤晃名古屋大学准教授は「なんとなく(縞模様が)見えるだろうと思っていた」。一方,共同研究者の内田正哉埼玉工業大学准教授は「強いて言えば見えないような気がしていた」と話す。

 

 実際に測定したところ,やはり縞模様が現れた。三つ叉のフォークのような変わった縞だ。だがこの結果には,単に「今までと同じ」という以上の意味がある。それを探ると,量子力学の不思議が見えてくる。

 

過去を知る電子は干渉しない 

 今回の実験に行く前に,まず普通の2重スリット実験を思い出そう。電子でなく光を使うと,学校で習った「ヤングの実験」になる。スリットに当たった光の波はホイヘンスの原理で回折し,波面は両方のスリットから広がっていく。光の波は山と山,谷と谷が重なったところで強め合い,山と谷が重なったところで弱め合う「干渉」を起こす。光の波がスクリーンに達すると,この干渉を反映し,光の縞模様が現れる。

 

 一方電子は,決まった質量を持つ粒である。光と違ってスリットのどちらかしか通れず,一見,干渉は起きないように見える。だが量子力学によれば,電子は粒であると同時に波でもある。実際は電子の波も2つのスリットを通り,スクリーンに到達する。そこで電子は粒子として検出されるが,波が強め合ったところでは高い確率で,弱め合ったところでは低い確率で見つかる。このため同様に干渉縞ができる。

 

 ただし干渉が起きるためには,電子が「どちらのスリットを通ったのかがわからない」状態でなければならない。どちらを通ったかがわかると電子はもはや波ではいられず,干渉しなくなる。もちろん干渉縞も見えなくなる。(続く)

 

続きは現在発売中の5月号誌面でどうぞ。

 

 

再録:別冊日経サイエンス199「量子の逆説」

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