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ストレスで遺伝子スイッチがオフに〜日経サイエンス2013年4月号より

遺伝素因にストレスが重なると脳内の遺伝子が機能を停止し,その影響は長期間続く

 

 ある種の遺伝子変異があると,思春期に強いストレスがかかった時に脳内で働く遺伝子が機能を停止し,その影響はおとなになっても続く──。名城大学の丹羽美苗研究員と鍋島俊隆特任教授,米ジョンズ・ホプキンズ大学,名古屋大学,京都大学の共同研究チームは,遺伝的な要因にストレスが重なった時に精神疾患の症状が起きる仕組みを,マウスの実験で明らかにした。

 

 DISC1という遺伝子に変異があるマウスが若いときに強いストレスを感じると,神経伝達物質のドーパミンを作る酵素の遺伝子が正常に働かなくなり,認知機能や意欲が減退する。こうした変化は,いったん起きてしまうと,ストレスが解消した後も長く続く。精神疾患がとかく長引いてしまう一因かもしれない。1月18日付のScience誌に掲載された。

 

孤独はマウスのストレス

 大うつ病,躁うつ病,統合失調症などの精神疾患は,大脳皮質や海馬で働くDISC1という遺伝子に変異がある人に発症しやすいことが知られている。研究チームは,遺伝子操作技術を用いてDISC1に変異があるマウスを作り,人間の思春期に当たる生後5週から8週の間,1匹ずつ隔離し互いが見えないようにして飼育した。マウスは通常,集団で生活するため,孤立は強いストレスになる。

 

 これらのマウスの認知機能や意欲を,実験で調べた。隔離したマウスと集団で飼育したマウス各10数匹について,まず74〜86デシベルの小さな音を聞かせた後に120デシベルの大きな音を聞かせる実験をした。集団飼育したマウスは最初の刺激で音がしても危険はないということを認識し,大きな音を聞かせてもあまり驚かなかった。一方,隔離したマウスは驚いて身を震わすなどの反応を示し,認知機能が低下していると考えられた。

 

 またマウスを水の中に入れると,集団飼育したマウスは泳いで水から逃れようとした。隔離したマウスにも同様の行動は見られたが,持続時間が短く,ただ水面に浮いている時間が長かった。嫌いなものから逃れる意欲が低下しているとみられた。

 

 このほか妄想や幻覚との関連を調べるため,新しいケージに入れて中枢神経を刺激する覚醒剤を注射し反応を見た。こうすると人間でいう妄想や幻覚のような症状が起き,マウスはケージ内をうろうろと歩き回る。隔離したマウスは集団飼育マウスに比べて激しく動き回り,異常行動が強くなることが明らかになった。

 

 DISC1に変異がないマウスを隔離して飼育しても,こうした異常行動は起きなかった。またDISC1に変異があっても,隔離というストレスがなければ,やはり異常は生じなかった。DISC1に変異があるマウスはストレスに弱く,思春期にストレスを受けると,変異がないマウスに比べてその影響を強く受けると考えられる。(続く)

 

続きは現在発売中の4月号誌面でどうぞ。

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