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過去をのぞくワームホール〜日経サイエンス2013年4月号より

木版画に残された欠陥から木食い虫の過去の分布がわかる

 

 ワームホール(虫食い穴)はタイムトラベルや瞬間移動のためだけのものではない。古代の虫食い穴という非常に現実的なワームホールが昆虫と芸術作品の分布の解明に一役買っている。

 

 ある生物学者が数百年前の欧州の木版画に見られる意外な世界に興味を持った。木版画に小さな点状の色抜けがたくさんあり,もとをたどると,版画が刷られる前の版木の表面に,ある種の虫が掘った穴であることがわかった。この生物学者,ペンシルベニア州立大学教授のヘッジズ(Blair Hedges)は,穴の大きさと版画が制作された時代や場所を突き合わせて,欧州全域における木食い虫の過去の分布を初めて描き出した。2月のBiology Letters誌に報告。

 

 ヘッジズはこの決定的な痕跡を「ワームホール・レコード(虫食い記録)」と名づけた。成体の甲虫が木片の割れ目に卵を産む。幼虫が生まれると,ゆっくりと木のなかに潜り込み,3~4年ほど木のセルロースを食べながらそこで生活する。イモムシのような幼虫が成体に変態して木から出てくるときに穴ができ,木版画にたくさんの色抜けとして現れる。

 

穴のサイズで甲虫の種を推定

 ヘッジズは1462年から1899年の間に作られた473の木版画作品に見られた3263個の虫食い穴を調べ,穴の直径に約2.3mmと1.4mmの2種類があることに気づいた。さらに,欧州全域を見ると穴の大きさに明らかなパターンがあった。小さいほうの穴はすべて欧州北東部で作られた版画にあり,大きいほうは南西部の版画に認められた。このためそれぞれの甲虫の種を推定できた。北東部の虫はコモンファーニチャービートル(Anobium punctatum),南西部の虫は地中海ファーニチャービートル(Oligomerus ptilinoides)だ。

 

 木版画を使うヘッジズの方法は,木食い虫の世界的な分布と歴史的範囲を調べて各地での個体数の変化や侵略種が入ってきた時代を推測するのに役立つだろう。古い本や印刷物の制作場所など,美術界の謎を解明するのにも利用できるかもしれない。■

 

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