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脱出ハッチ〜日経サイエンス2013年3月号より

捕獲かごの一部を生分解性にすれば迷い込んだ希少生物をリリースできる

 

 2006年,米国東海岸のチェサピーク湾に流れ込む数多くの河川の1つ,ヨーク川の底を調査測量していた科学者たちが奇妙なものに出くわした。「川底の至る所に,小さな四角いものが見え始めた」とバージニア海洋科学研究所の生物学者ビルコビック(Donna Bilkovic)はいう。

 

 その四角いものは,チェサピーク湾の大きなワタリガニ漁場から流れてきた何百個もの蟹かごだと判明した。カニ漁船が仕掛ける蟹かごの数は世界で毎年数百万個に上り,そのかなりの割合が失われている。メリーランド州とバージニア州だけでも,年間約80万個の蟹かごが仕掛けられ,その30%が固定用ワイヤから外れて漂流し,時に何年も底の泥に半ば埋もれたままになる。しかし,こうして遺棄されても,かごの機能がなくなったわけではない。かご1つに毎年50匹を超えるカニのほか,絶滅危惧種のキスイガメなど数種類の生物がひっかかる。

 

 これだけ広範囲に広がった大量の蟹かごを回収するのは事実上無理なので,ビルコビックと同僚のヘイブンズ(Kirk Havens)は,この厄介な捕獲かごを武装解除する簡単な方法を考案した。生分解性のパネルだ。植物性材料で作ったパネルを蟹かごの側面に組み込んでおけば,蟹かごがどこかに失われても8~12カ月で溶解する。パネルがなくなれば,中に迷い込んできた生物はみな再び出て行ける。

 

漁に影響なし,コストが課題

 ビルコビックが心配したのは,パネルをつけることでワタリガニの捕獲量まで落ちてしまうようなら,カニ漁師はこれを使いたがらないだろうという点だった。だが,問題はなさそうだ。去る12月にConservation Biology誌に掲載された研究で,ビルコビックとヘイブンズはチェサピーク湾のカニ漁師に生分解性パネルつき蟹かごと従来の蟹かごを実際に使って比べてもらった。その結果,カニの捕獲量や大きさに差は認められなかった。

 

 バージニア州海洋資源委員会の責任者ブル(John Bull)は「独創的な解決法だ」と評価する。しかし,パネル1枚のコストはわずか1ドルほどだとはいえ,まだ高すぎる。「カニ漁業界にとって75万~150万ドルの出費増となるだろうが,それをまかなう資金が業界にはない」。

 

 

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