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女の子用ミルクと男の子用ミルク〜日経サイエンス2013年2月号より

赤ん坊の性別と母親の経済状態によって母乳の成分が変化する

 

 母乳は生まれて初めて口にする食べ物だが,均等に作られてはいないようだ。ヒトを含め哺乳動物の乳の成分は,赤ん坊の性別や条件の善し悪しによって変わることが明らかになった。この違いを理解すれば,人間の進化について新たな知見が得られるかもしれない。

 

 ミシガン州立大学などの研究グループは,ケニアの田舎に住む母親72人のうち,男児の母親の母乳は全般的に濃厚であることを発見した(男児への母乳は脂肪分2.8%,女児への母乳は脂肪分0.6%)。しかし,母親が貧しい場合,女児への母乳は濃厚になった(同2.6%と同2.3%)。

 

 American Journal of Physical Anthropology 誌9月号に掲載されたこの発見は,ハイイロアザラシとアカシカの母乳の成分が子供の性別によって異なり,マカクザルの場合は子供の性別のほか親の状態によっても異なるという以前の研究結果と一致している。今回の研究はさらに,マサチューセッツ州に住む裕福で栄養状態のよい母親が男児に与える母乳はカロリーが高いという発見とも一致している。

 

トリヴァース=ウィラード仮説

 これらの研究結果は,進化生物学における40年来の「トリヴァース=ウィラード仮説」を裏づけるものだ。この仮説は,環境が厳しいときには娘に,環境が恵まれているときには息子に多くを投資するように自然選択が働くと考える。このアンバランスは,男性が複数の妻との間に子供をもうけることができる一夫多妻制の社会で最大となる。ケニアの村は一夫多妻だ。

 

 一夫多妻の社会では,息子が強くて人気のある男に成長すれば多くの妻と子供を持つことができ,そうでない男は妻も子供も得られない。息子に投資できる裕福な親は,実際に息子に多くを投資するだろう。それによって多くの孫を得られる可能性があるからだ。反対に,貧しい親は息子に投資しすぎないほうがよい。貧しい家庭の息子は社会経済的な階級の最下層からの出発となるので,息子に賭けても報われにくいからだ。貧しい家庭の場合は娘に賭けたほうが安全といえる。なぜなら,娘は成人するまで育てば子供を産めるからだ。

 

 ラトガーズ大学の進化生物学者でこの仮説の提唱者の1人であるトリヴァース(Robert
Trivers)は今回の研究結果を「エキサイティングにして見事」だという。「私がまったく予測もしていなかったトリヴァース=ウィラード効果だ」。(続く)

 

続きは現在発売中の2月号誌面でどうぞ。

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