News Scan

南極湖底の「コケ坊主」〜日経サイエンス2012年10月号より

コケの“森”が育む生態系の全体像が明らかに

 

 南極大陸は植物の生育にはまったく向かない。気温の低さはいうまでもないが,風が強いので,根を張って定着することも難しい。夏は日が沈まず,冬は暗闇が続くという日照サイクルも異常。また,空気中の水分が凍ってしまうため,大気は極めて乾燥しており,利用できる水分もない。そんな南極の意外なところに,辺り一面に緑の森が広がる場所がある。湖の底だ。コケが絡まり合ってできた高さ数10cmの柱のようなものが湖底を覆っているのだ。

 

 この不思議な形をした「コケ坊主」は南極の一部地域でしか見つかっておらず,世界的にも例のない独自の生態系を育んでいる。このほど,このコケ坊主に生息する生物とその生態系の全体像が,広島大学と国立極地研究所,国立遺伝学研究所,新領域融合研究センター,新潟大学による共同研究で明らかになった。この研究成果はこのほどPolar Biology誌に3本の論文として発表された。

 

独立した生物圏

 コケ坊主が存在するのは,南極大陸の東部にある昭和基地にほど近い,スカルブスネスという露岩地帯周辺の湖だ。この辺りには大きさや塩濃度のさまざまな湖が100個以上あり,その中で比較的低塩濃度(0〜0.5%)の10個ほどの湖で見つかっている。1995年に国立極地研究所の伊村智教授が発見し,湿地帯に生えるスゲの株が絡まり合って坊主頭のような形になった「谷地坊主」に似ていることから,この名前を付けた。

 

 コケ坊主を構成しているのは主にナシゴケ属(Leptobryum)のコケで,これに一部,ハリガネゴケ属(Bryum)のコケが混ざってできている。直径30〜40cm,高さが最大で80cmほどの柱のような構造物をよく見ると,コケの葉や茎に相当する部分が伸びて絡まり合い,その隙間を藻類や細菌が埋めているのがわかる。中には分解した植物体が詰まっている。

 

 コケ坊主が生い茂る南極の湖の中は,低温砂漠ともいえる陸上とは一変して,かなり快適な環境だ。湖表面が氷で覆われても,この地域の冬期の最大氷厚は約1.5mで,その下には一年中水がある。水温は冬でも3〜4℃,夏には10℃にもなる。しかし,栄養は極めて乏しく,大型動物や魚はまったく生息していない。プランクトンもほとんどいない。(続く)

 

続きは現在発売中の10月号誌面でどうぞ。

サイト内の関連記事を読む