きょうの日経サイエンス

2012年3月20日

ブックレビュー特集「大学1年生に薦めたい本」より(前半)

 

 恒例の「ブックレビュー特集」は昨年に続いて「大学1年生に薦めたい本」。今年も7人の方に執筆をお願いしました。それぞれのお薦め本のタイトルは発売日の24日までお待ちいただくとして(ケチですみません),「大学1年生へのメッセージ」を中心に,2回に分けて一部をご紹介します。

 

謎から仮説,検証へ プロセスを理解して実践しよう
 特集のトップバッターは大竹文雄・大阪大学社会経済研究所教授。ご専門は労働経済学で,『経済学的思考のセンス──お金のない人を助けるには』(中公新書)をはじめ多数のベストセラーがあります。
 大竹先生は「科学の最前線ではわかっていないことの方が圧倒的に多い」としたうえで,わかっていないことを研究し,仮説を立てて,それを検証することの重要性を指摘。こう締めくくっています。「(仮説から検証へという)プロセスを理解して,実践できるようになることが,大学を卒業した後も一番役に立つ」。科学的アプローチの方法は,世の中のさまざまな事象を検討するうえでも大事な視点です。
 少し脱線ですが,大竹先生のウェブサイトの冒頭にあるNEWSを見て,驚いたことがあります。2010年に出版された『競争と公平感──市場経済の本当のメリット』(中公新書)の大学入試問題での出題数の多いこと! この本が出たのは鳩山政権誕生のほぼ半年後で,前小泉政権の「競争至上主義経済」に対する強烈な批判と,日本人特有ともいえる市場競争への不信感が相まって,不平等や格差問題の議論が盛り上がってきた時期でもあります。入試問題の作成者も含めて,多くの人が読んだと思われますが,近ごろはこうしたベストセラーから問題が出されているんだなぁ,というのが正直な感想でした。近くに受験生がいる方はぜひチェックしてみてください。日経サイエンスからも,ときどき入試問題が出題されていますので,お忘れなく。

 

遊びの回路も育てておくと将来役立つ
 次は,加藤忠史・理化学研究所脳科学総合研究センター精神疾患動態研究チームシニア・チームリーダー。双極性障害(躁うつ病)の新たな治療法や診断法の開発を目指して,発症メカニズムの解明に挑んでいます。
 加藤先生はメッセージの中で,ご自身の大学1年生時代を振り返られ「ろくなことはしてないかった」とバッサリ。講義をさぼって,音楽に凝ったり,ぶらぶらと過ごした時期もあったそうです。一方で,高校時代には触れることのなかったアーサー・ケストラーやデズモンド・モリスの著作を英語の講義で読む機会があり,知的刺激を受けたというエピソードも披露。
 あの頃もっと学んでおけばよかった,という思いもある一方,「研究は楽しんでやらなければできないし,幅広い社会ネットワークも必要になる。遊びの回路も育てておくと良いかもしれない」とアドバイス。寄り道もいつか役に立つことがあるかもしれない……。温かい先輩の一言です。

 

人生を楽しむ秘訣があるとしたら…
 続いては作家の川端裕人氏です。『夏のロケット』(文春文庫),『算数宇宙の冒険』(実業之日本社文庫),『PTA再活用論──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)など多数の著作がある川端さんは,テレビ局記者から作家へというご経歴の持ち主。小説とノンフィクションの2つの分野で活躍中です。
 川端さんが「学生時代に読んだ記憶に残る本」として挙げたのは,村上春樹の1980年の作品『1973年のピンボール』。「ガツンとやられた読書体験として,今も忘れられない」と振り返ります。村上春樹はこの作品を発表した翌年,オーナーを務めていたジャズ喫茶を友人に譲り,作家業への専念を決意。村上氏自身にとっても記念すべき作品だったのかもしれません。
 川端さんは「目の前にある諸々を片っ端から面白がって大学生活を送ってもらえたらいいかも」とエールを送ります。人生を楽しむ秘訣があるとしたら「それは物事を面白がる力かもしれない」。大学一年生でなくても,元気づけれるメッセージです。(前半了)

 

 

ブックレビュー特集「大学1年生に薦めたい本」より(後半)