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ボストーク湖の呼び声〜日経サイエンス2012年5月号より

南極の氷底湖から何が見つかるだろうか?

 

 東南極氷床の中央部,厚い氷の下に,長さ約250km・幅約50kmの水の塊が埋もれている。「ボストーク湖」として知られる氷下の湖だ。氷上にはその名前の由来となったボストーク基地(1957年にソ連が建設,現在はロシアが運営)がある。そこは南極の標準からいっても過酷な場所で,ここで観測された−89℃という気温は地球上での最低記録だとされる。

 同基地で14年前から,古代の氷の層をうがって1つの穴が少しずつ掘られてきた。氷下に大量の水が存在している可能性が1950年代から60年代に浮上した。この可能性が地中レーダー探査によって後に確認され,5400km3の水をたたえたボストーク湖が氷下4kmほどのところに存在することがわかった。

 この氷底湖が地上の環境から隔絶されてきたのは明らかだ。湖水そのものが南極の厚い氷の変化に伴って徐々に入れ替わるとはいえ,それには優に1万年以上かかるだろう。ボストーク湖が数百万年にわたって完全に隔絶されてきた可能性もある。

 光は差さないが,酸素などのガスが過飽和状態で豊富に溶け込んでいるとみられ,極限環境微生物がすむ特異な生態系が存在するのではないかと以前から考えられている(微生物だけではないかもしれないが,何がいるかは誰にもわからない)。ボストーク湖まで氷に穴を開けると,純粋で脆弱かもしれない湖の環境を汚染する恐れがあるが,ロシアの科学者たちは10年以上をかけて掘削を進め,ついに湖の直上に達した。今後,掘削装置の圧力を下げて水を採取し,生物学的・化学的に詳しく解析する予定だ。

 非常にエキサイティングだが,かけがえのない生態系をまたひとつ台なしにするかもしれないと思うと,非常に心配でもある。しかしうまくいけば,ボストーク湖の失われた世界から得られた知識は,木星の衛星エウロパとガニメデなど太陽系の別の天体の地下に存在する海や,土星の衛星エンケラドスに見られる噴泉などの科学調査に弾みをつけることになるだろう。

 いまボストーク基地で進んでいることは,宇宙での生命探査の新たな章の始まりなのかもしれない。

 

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