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植物か動物か,それが問題だ〜日経サイエンス2006年1月号より

筑波大学の研究者が奇妙な生物「ハテナ」を発見
共生による生物種進化の謎に手がかり

 

 あるときは植物として光合成で生き,またあるときは動物となって餌をとらえる──そんな不思議な海洋微生物が見つかった。生命進化では異種生物どうしの共生が進んで新たな種が誕生すると考えられている。新発見の生物はその過程を解明する新たな手がかりになりそうだ。
 「ハテナ」と名付けられたこの単細胞生物は筑波大学の井上勲(いのうえ・いさお)教授とポスドク研究員の岡本典子(おかもと・のりこ)氏らが5年前,和歌山の海岸で採取した海水を顕微鏡で調べていて偶然に発見した。その後の研究を踏まえてScience誌2005年10月14日号に発表した。

 

原生生物と藻類の複合体

 体長は約30μmで,2本のべん毛を持つ。全体は透明だが,部分的に緑色をしており,そこには葉緑体がある。こうした形態などから,カタブレファリス門に属する捕食性の原生生物の体内にネフロセルミス属の藻類が共生し,全体として統制がとれた生物体として機能しているとみられる。
 通常の単細胞生物では細胞分裂によって姿形が同じもう1つの生物が生まれるが、ハテナは違う。葉緑体部分は分裂した一方だけに受け継がれ、もう片方はまったく葉緑体を持たない無色透明の姿になる。葉緑体を受け継いだほうは以前と同様に光合成で生きるが,葉緑体を持たないほうには新たに口ができ,藻類を食べ始める。
 捕食された藻類の多くは消化されてしまうが、特定種類の藻類を取り込んだ場合は消化せずに共生関係を結ぶようになり,口が消え,光合成で生きる姿に戻ると考えられている。ただし、共生の対象となる藻類は単独ではまだ海水中から発見されておらず,ハテナがもとの“植物の姿”に戻る過程は未確認だ。
 植物の姿をしたハテナの場合,光を感じる「眼点」という器官が2本のべん毛の付け根近くの葉緑体の部分にある。宿主の原生生物と共生藻類との間で何らかのやり取りがあって,藻類の眼点の場所が常に一定位置に来るように制御されているとみられる。
 さらに,共生関係を結んだ状態の藻類は通常のネフロセルミス属よりもサイズが10倍以上大きく、「宿主による遺伝的改変が行われているようだ」(井上教授)という。
 ハテナは最初に発見された海岸以外からも採取されており,幅広い地域に存在するとみられる。ただ,共生関係が生まれる過程の解明はこれから。宿主となるカタブレファリス門そのものも謎が多く,引き続き新たな発見が期待できそうだ。

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